インド映画を巡る冒険(仮)

以前メインのブログに書いたインド映画記事のアーカイヴです。当時書いたまま直さず転載しておりますので、誤記等ありましてもご容赦ください。

病魔に冒された患者と医者との友情/映画『Anand』【アミターブ・バッチャン特集 その5】

■Anand (監督:リシケーシュ・ムカルジー 1971年インド映画)


病魔に冒された患者と一人の医者との友情を描いた1971年公開のインド映画です。主演は当時絶大な人気を誇っていた男優ラージェーシュ・カンナーとデビュー間もない頃のアミターブ・バッチャン

物語の語り部となるのは癌の専門医バースカル(アミターブ)。彼はある日アナン(ラージェーシュ)という末期癌患者と出会いますが、彼は自分の病を知っているにもかかわらず、驚くほど陽気で快活な男でした。人々はそんな彼に魅了されてゆきますが、否応なしに死の時は迫ってきて…というもの。

インド映画の難病モノというとシャー・ルク・カーン主演の『たとえ明日が来なくても(Kal Ho Naa Ho)』(2003)を思い浮かべますが、己の死期を悟りつつ精一杯明るく生きようと努力する主人公の姿を描いている点で共通しています。というよりもこの作品の主人公アナン、明るく元気というよりは、いつも落ち着きが無くやかましいほどにペラペラとまくし立て、本当にこの人病気なの?と思えてしまう程です。だからこそ周囲が彼の病気を知った時の驚きと哀しみも一層深いものになってゆくんですね。

難病モノ映画におけるこういった「快活な難病患者」は昨今では割とよくある手法なんですが、当時は十分心をえぐるものだったのかもしれません。それよりも死期を悟っている主人公が度々劇中において語るその死生観にどこかインド的なものを感じました。また、そんな主人公の為に周囲の人たちがヒンドゥーイスラム、キリストと、それぞれの神に祈る場面などもインド映画独特でしたね。

とはいえ主人公の死期が近付き、病の床に臥せるようになるとどうしても悲劇性を強調することになってしまい、個人的にはそういった部分で通俗的に思えてしまったのが残念。ラージェーシュ・カンナーの陰影に富んだ演技がリードしてゆく作品でしたが、アミターブもまた実に医者らしく思わせる落ち着いた演技で抜群でした。