■Hum (監督:ムクル・S・アーナンド 1991年インド映画)
ボリウッド映画の帝王アミターブ・バッチャンとタミル映画のスーパースター、ラジニカーントが共演していた!という映画『Hum』であります。さらに往年のインド映画大スター、ゴーヴィンダまで共演しているのでその濃さはひとしおです。タイトル「Hum」は「われら」という意味で、これはインド映画らしい家族主義と仲間意識をテーマにしているからなんですね。ちなみにこの作品は2000年に東京ファンタスティック映画祭において『タイガー 炎の3兄弟』というタイトルで日本公開されています。
物語はまず前半、ボンベイの港で労働者たちを仕切るギャングのバクタワールによる悪逆非道ぶりに遂にブチ切れたタイガーと呼ばれる男(アミターブ)の暴れん坊ぶりが描かれます。タイガーはここでギャングを成敗するものの、両親と友人を殺され、恋人とは離れ離れになったまま、幼い二人の弟を連れて逃亡することになります。そして後半は成長した二人の弟とその家族がタイガーと幸せに暮らす様子から始まるんです。弟の一人クマール(ラジニカーント)は妻と一人の娘がおり、もう一人の弟ヴィジェイ(ゴーヴィンダ)にも恋する娘がいました。しかしそんな幸福に暗雲が垂れ込みます。刑務所を出所したバクタワールがタイガーへの復讐を誓い、クマールの妻と娘を誘拐してしまうのです。
というわけで映画『Hum』、なにしろ豪快な映画でしたね。前半はギャングに虐げられた労働者たちの憤怒が爆発し、暴動にまで発展する様と、さらにタイガーの父母、友人の非業の死が描かれ、遂に大爆発したタイガーの凄まじいバイオレンスが炸裂するのです。ドラゴンならぬ「タイガー怒りの鉄拳」ですね。この前半は映画の間中誰も彼も血管ブチ切れ気味にわあわあ大声で怒鳴りまくってるので、「この調子で3時間余り続くのか…」とちょっと暗澹たる気持ちになるのは否めません。
しかし後半からはガラリと雰囲気が変わります。この後半ではタイガー一家の喧嘩したり笑ったりといった微笑ましいエピソードの数々が描かれてゆくんです。タイガー自身は家族に自分の過去を隠し、隠遁した中年男性として生きています。ここで中心となるテーマは家族の強烈な繋がりです。タイガー3兄弟とクマールの妻子が5人揃って「Hum=われら」の愛と結束を歌い上げるシーンなどにそれは顕著でしょう。1本調子だった前半と比べ、ラジニカーント、ゴーヴィンダが加わることで物語に膨らみと楽しさが加わっています。
(ここからネタバレ含みます)しかしタイガーに復讐を誓うマフィアのボスの登場により物語は再び緊迫するんです。実はマフィアのボスだけではなく、その裏で悪徳警官ギルダールが暗躍しています。このギルダールをなんとインド映画の名バイプレイヤー、アヌパム・ケールが演じているんですよ。アヌパム・ケールはコミカルながら煮ても焼いても食えない小悪党を演じ、これがまたいい味なんですね。しかも最終的にタイガーにボコボコにされた挙句爆弾抱いて爆死します!すげえよアヌパム!
さらにクライマックスがとんでもないんです。たった一人悪党の待つ港へ駆けつけたタイガーは、ここで機関銃を構えた悪者達と何台もの装甲車に包囲され絶体絶命のピンチを迎えます!しかしそこに二人の兄弟が歌いながら現れるんです!そして3人で「俺たちゃ仲間〜」と歌いながら素手で悪者たちをボコッて勝利しちゃうんですよ!このクライマックスも含めなにしろ全体的に豪快な作品です。逆に見るなら大雑把で大味ということもできます。実のところ、物語、演出、踊り、音楽、どれも大仰ではありますが、最終的な仕上がりはどこか雑で造りが甘いんです。しかしこれを「勢いの良さ」ととらえて楽しむのが一番いい見方の作品なのかもしれません。
(※多分ファン・メイドの予告編です)