インド映画を巡る冒険(仮)

以前メインのブログに書いたインド映画記事のアーカイヴです。当時書いたまま直さず転載しておりますので、誤記等ありましてもご容赦ください。

大邸宅を彷徨う亡霊の影〜映画『Bhool Bhulaiyaa』【ヴィディヤー・バーラン特集】

■Bhool Bhulaiyaa (監督:プリヤダルシャン 2007年インド映画)


歴史の古い大邸宅に起こる怪異。『Bhool Bhulaiyaa』はそんなホラー系の匂いをさせる作品です。出演はヴィディヤー・バーラン、アクシャイ・クマール、アミーシャー・パテール。そしてこの作品、ラジニカーント主演の『チャンドラムキ〜踊る!アメリカ帰りのゴーストバスター』のリメイクでもあるんです(『チャンドラムキ』自体もリメイクなんですが)。

物語はインドのヴァーラーナスィーの実家へアメリカに留学中だったスィッダールト(シャイニー・アーフージャー)が妻アヴニ(ヴィディヤー・バーラン)を連れて帰ってくる所から始まります。スィッダールトの実家はマハラジャの大邸宅なんですが、実はここにはお化けが出る、と噂されているんですね。しかしある日スィッダールトの妻アヴニが「開かずの間」の封印を切ってしまい、それから邸宅には奇怪な出来事が次々に起こり、亡霊の影が目撃されるようになるんです。スィッダールトは事件解決の為に精神科医アーディティヤアクシャイ・クマール)を家に招き、事態の究明に乗り出そうとするんです。

さてこの作品、最初に書いちゃうとホラー系とはいえ全く怖くありません。舞台となる邸宅は歴史のある古い建物ですが、美しく壮麗ではあっても薄気味悪かったりとか瘴気に満ちていたりとかそういった部分が全然無いんです。むしろ亜熱帯地方らしい明るさと華やかさに溢れていて、まるでホラーの舞台という気がしません。さらにここで起こる怪異にしても見るからに超自然現象といった描かれ方をしておらず、観ていると「これは霊魂の仕業とかではなくて誰かが意識的にやってることなんじゃ?」と思わせるんですね。

そんなわけで物語への興味は恐怖や不気味さではなく、誰が何の為にやっているのか?という犯人当てになってゆくんです。だから「こいつが怪しい…こいつも怪しい…でもこういう物語は一番怪しくないのが本命だというセオリーだからやっぱりこいつか…」と観ていくと楽しいのではないでしょうか。ただしこの辺もミスリードを誘ったりしているので、「いや実はやっぱり霊の仕業ってことでオチを付けるんじゃ?」なんて思わせながら物語は進んでゆくんです。

こんな具合にホラー的な部分で肩透かしだった分、中盤から登場するアクシャイ・クマールによって物語はやっとしまりが出てきます。アクシャイは相変わらず暢気でヌーボーとしたキャラを演じますが、しかしそんな中でも細かいことに目を留め真実を明らかにしようとする姿はきちんと描かれており、好演でしたね。一方怪異に巻き込まれるヴィディヤー・バーランは、これはネタバレになるので多くは書けないのですが、クライマックスの凄まじい展開を迫真の演技で演じきっており、やはりこの人は別格だなあと思ったのと同時に、こんな役をやれるインド女優は他にいないんじゃないかとすら感じさせました。

舞台となるヴァーラーナスィーは ガンジス川沿いに位置するヒンドゥー教の一大聖地なんですね。映画でも沢山の信者や巡礼者、導師が描かれ、その中にもどうにも怪しげな信者が登場したりして楽しめます。こういったヴァーラーナスィーの光景を見ることのできる作品としても面白いものがありました。この『Bhool Bhulaiyaa』はホラーだと思って観ちゃうと物足りないし退屈なんですが、一種のサイコロジカル・スリラーとしてとらえるとインド映画としてもなかなかの着眼点にある物語だといえるのではないでしょうか。

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