インド映画を巡る冒険(仮)

以前メインのブログに書いたインド映画記事のアーカイヴです。当時書いたまま直さず転載しておりますので、誤記等ありましてもご容赦ください。

生き別れた親父は詐欺師だった!?〜映画『Yamla Pagla Deewana』

■Yamla Pagla Deewana (監督:サミール・カールニク 2011年インド映画)


この間観たインド映画『Gadar: Ek Prem Katha』(レビュー)は印パの確執に翻弄される親子を描きながらトンデモ展開へとなだれ込んでしまう、という面白い作品でしたね。それと同時に、主演だったサニー・デーオールが実によかったんですよ。髭にターバンというシク教ルックと併せ、気は優しくて力持ち、というキャラ設定が魅力的でした。そんなサニー・デーオールの他の主演作はないかな?と探して見つけたのがこの『Yamla Pagla Deewana』。サニー・デーオール演じる主人公が幼い頃生き別れた父と弟を探し出すんですが、見つかった二人はなんと詐欺師として生きていた!?というドタバタコメディです。

《物語》カナダのバンクーバーで母、妻子とともに暮らすシク教徒のパラムヴィール(サニー・デーオール)はある日、彼が幼い頃行方不明になっていた父と弟がインドのバラナシで暮らしていることを知り、急遽インドへと飛ぶ。だがようやく見つけた父ダラム(ダルメーンドラ)と弟ガジョーダル(ボビー・デーオール)は、こすっからい詐欺師として生計を立てていた。父と弟はパラムヴィールの言うことを信じず、パラムヴィールは二人に認めてもらおうとなんと一緒に詐欺師を働くことになった。一方弟ジョーダルはパンジャブからバラナシに訪れていたサーヒバー(クルラージ・ランダーワー)という女性に恋をし、なんとか交際に漕ぎ着ける。だがそこにサーヒバーの強面な兄たちが乗り込み、サーヒバーを故郷に連れ去ってしまう。肩を落とすジョーダルの為にパラムヴィールは一肌脱ごうと持ちかけた。それは身元を偽って彼女の実家を訪れ、彼女と結婚してしまおう、というものだった。

主人公がシク教徒、そして登場する人たちも殆どシク教徒という、ある意味「シク教徒コメディ」とも言える作品です(そんなもんあんのかよ)。それにしてもインド・コメディではなぜこんなにシク教徒はお笑い扱いになるのでしょうか。髭にターバンというお馴染みのルックスがインド人にとってもユーモラスなのでしょうか。それに映画のシク教徒って、だいたいがガラが悪くて単純で、かっとなり易くて暴力的という紋切型で描かれますよね。いつもサーベル振り回しているかライフル空に向けてガンガン撃っていて、そしていつも徒党を組んでわあわあと喚きたてながらあっち行ったりこっち行ったりしていて、でもどこかヌケている…というのが映画におけるシク教徒のように見えます。でもシク教の本山はパンジャブだそうですが、映画に出てくるパンジャブ娘はガラッパチですけどチャキチャキとしていてオレは結構好きですね。

さてこの物語の主人公パラムヴィールは一貫して「気は優しくて力持ち」のキャラとして活躍します。単純で分かり易いキャラなんです。いつも穏やかで顔には笑みを絶やしませんが、奥さんだけは怖くて頭が上がりません。バラナシでダラムとガジョーダルにさっそく騙されても怒るどころか「やっぱり父さんと弟だ!」と喜ぶ始末。おまけに彼らの信頼を得るため一緒に詐欺やら泥棒までしてしまいますが、モラルなんかよりも親子の愛情が優先という、間違ってはいるんですが何故か憎めないところがあるんですね。もう一つの「力持ち」要素、これが凄い。腕っぷしが強いどころか殆ど超人並みの強さ。前半と後半に大掛かりなアクション・シーンが設けられていますが、これが『ダバング』すら髣髴させる重力無視の超絶アクションと向かうところ敵なしのスーパーマンぶりを見せつけます。後半のアクション・シーンはさらに馬鹿馬鹿しい味付けがされ、ドリフのコントでも見せられているかのようなハチャメチャさです。そう、この映画、アクションもイケるんですよ。

物語は前半ではバナラシを舞台とした主人公パラムヴィールの親子探しの顛末、インターバルを挟んだ後半はパンジャブでの弟ガジョーダルの恋の決死行が描かれ、インド映画らしく前半後半トーンの違う2部構成的な作りが今見るとなんだか懐かしくすら感じます。そしてこんな物語を経ながら離れ離れになっていた親子の再会と心の繋がり、そしてあの手この手の恋愛大作戦が盛り込まれてゆくというわけです。コメディではありますが、スラップスティックなドタバタというよりも終始おおらかなユーモアで全体が構成されているといった形でしょうか。もちろん歌と踊りも楽しいですよ。

この作品の主演となる3人、ダルメンドラ、サニー・デーオール、ボビー・デーオールは実はダルメンドラを父とする親子俳優なんですね。この「親子3人の共演」という部分がまず見所になる作品です。さらにこのダルメンドラ、「アクション・キング」とまで呼ばれた往年のインド映画大スターで、あの『Sholay』ではアミターブ・バッチャン演じるジャイの相棒、ヴィールを演じていた俳優と後で知ってびっくりしました。『Sholay』の頃はまだまだ若かったダルメンドラですが、この『Yamla Pagla Deewana』ではすっかり渋い壮年男性になっており、見る角度によってはハリウッド俳優のトミー・リー・ジョーンズとちょっと似ているかもしれないですね。また、この作品ではインド映画の名バイプレイヤーであるアヌパム・ケールがサーヒバーの父役として出演、いつも拳銃を振り回すアブナいシク教徒のおじさんとして大いに笑いをとっています。

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