インド映画を巡る冒険(仮)

以前メインのブログに書いたインド映画記事のアーカイヴです。当時書いたまま直さず転載しておりますので、誤記等ありましてもご容赦ください。

マードゥリー・ディークシトがあまりにも素晴らしいクライム・ムービー『Khalnayak』

■Khalnayak (監督:スバシュ・ガイ 1993年インド映画)


この『Khalnayak』は極悪人で知られる犯罪者バルー(サンジャイ・ダット)とそれを追う刑事ラム(ジャッキー・シュロフ)、そしてラムの恋人である刑務官ガンガ(マードゥリー・ディークシト)との物語です。あちこちで悪いことやらかしているバルーはやっと逮捕されるんですが、それも束の間まんまと脱獄し、そのことで刑事ラムが責任を追及されちゃうんですな。ラムを不憫に思った恋人のガンガは、ダンサーに身を変えてバルーの組織への潜入捜査を始めるんです。そんな中バルーはガンガに恋をしてしまい、またガンガはバルーが心底悪人ではないことを知ってしまう…といった物語です。しかし潜入捜査とか言ってますが居所わかってるならその場で逮捕すればいい話じゃないか、とは思いますが、まあ気にしないことにしましょう。

この映画、まずなにしろサンジャイ・ダットの顔がコワイ。例のドロンとした目つきがなにしろアブナイ。しかも今回のサンジャイさん、長髪なんです。オレが初めて目にしたサンジャイさんの映画はリティク・ローシャン主演の『Agneepath』なんですが、この時のサンジャイさん、ツルッツルの剃髪してたんですね。それはそれで相当不気味な雰囲気を醸し出してましたが、長髪のサンジャイさんもかなり気色悪い。こんなコワイサンジャイさんの顔を映画の間中眺めなければならないので、結構キツイ映画であるのは確かです。一方刑事役のジャッキー・シュロフ、自分は『Parinda』のマフィア役で一度観たことがありますが、元モデルでダンディ俳優なんて呼ばれていたらしく、このダンディなジャッキーさんと気色悪いサンジャイさんの対比を楽しむ、というのがこの映画の仕組みなのでしょう。

物語は冒頭からバイオレンス満載で展開してゆきます。留置所での血塗れのリンチやら銃撃戦やらコブシとコブシの肉弾戦やらアクション要素がたっぷりです。ただこう言っちゃなんなんですが、この時代のインド映画のアクションって、どうしても見劣りがします。なんかこう、「見よう見まねのアクション」てな風情があります。それでもそれなりに工夫はしていて、「木に登って樹上での殴り合い」なんていうインドならではのアクションがあって、しかもそれを猿が見ている、という妙な描写が挟まれ、なんだかよく分からないですが楽しかったでした。ただなあ、逃走するバルーとその一味、何度も何度も容易く包囲され過ぎ。そして包囲した警官隊も何度も何度も逃がし過ぎ。

そんなこんなでお話としてはイマイチだったんですが、しかし、この作品にはひとつ燦然と輝きわたるものがあるんです。それはヒロインのマードゥリー・ディークシトの存在です。どうにもドンヨリとしているだけのこの物語で、マードゥリーが登場すると突然映画の雰囲気も流れさえも変わるんですね。往年の名女優というのは聞いて知ってはいたものの、この人の存在感だけでこれだけ映画が変わってしまうのか、と改めて驚かされました。

マードゥリーさん、確かに相当の美人女優なんですがそれだけではない。踊りの"いろは"なんて知らない自分が見てもこの人の踊りは目を見張るものがある。さらにそれだけじゃなく、演技のスキルが相当に高い。マードゥリーの演技は巧すぎて逆に周りから浮いて見えるほどです。美人で踊りが上手くて演技が素晴らしい、この人はもはや完璧な女優だったのではないでしょうか。そういった意味で、この映画はまさにマードゥリーを愛でるためにある作品だったと言ってもいいのではないでしょうか。最近古めのインド映画をよく観ているんですが、当時のマードゥリーの物凄さが今、じわじわと身に沁みてきている最中です。

◎「Choli Ke Peeche Kya Hai」/ 「コッコッコッコッ…」という合いの手が聴いててなんだか癖になりそうな曲です。