インド映画を巡る冒険(仮)

以前メインのブログに書いたインド映画記事のアーカイヴです。当時書いたまま直さず転載しておりますので、誤記等ありましてもご容赦ください。

貴族の屋敷で玉の輿!?ディズニー配給のインド・シンデレラ・ストーリー『Khoobsurat』

Khoobsurat (監督:シャシャンカー・ゴーシュ 2014年インド映画)


貴族のお屋敷に務めることになった普通の女の子が、あっけらかんとした明るさで厳格すぎる貴族一家の心を融かし、跡継ぎ息子も次第に彼女に惹かれてゆくが…というラブ・コメディです。インド映画ですが、ディズニー製作という所がちょっと珍しいですね。素敵な王子様と普通の女の子が出会う、というファンタジー・ロマンスの王道を行くような物語は、確かにディスニー映画らしいとも言えます。しかし、このお話は、それだけではない魅力があるんですよ。

理学療法士のミリー(ソーナム・カプール)はある日、足の悪いラトール家当主の治療を紹介され、住み込みで働くことになります。ラトール家に着いたミリーはびっくり、そこは広大な敷地に壮麗な豪邸が建ち、多くの召使たちがうやうやしくかしずくような所だったからです。「すてきー!すっごーい!」最初こそはしゃぎまくっていたミリーでしたが、家に入って目にしたのは、格式でがんじがらめになって生きる貴族一家の姿でした。しかしミリーはあくまで自分らしく自由闊達に行動する事を止めません。家族は次第にミリーに惹かれるようになり、さらに息子のヴィクラム(ファワード・カーン)と心を寄せ合うようになります。しかし、ヴィクラムには既にフィアンセがおり、当主の妻は「あんな一般人の娘!」と尊大な態度を崩そうとしないんです。

監督はなんとあのカルト・ムービー『Quick Gun Murgun』を撮ったシャシャンカー・ゴーシュ。相当シュールで奇妙奇天烈な作品だった『Quick Gun Murgun』ですが、その監督がラブコメディを、しかもディズニー配給でって、人選した人相当冒険したね!しかしこの人選には誤りはなかったようで、『Quick Gun Murgun』のぶっ飛んだ色彩感覚と摩訶不思議な世界観は、この作品でポップでファンシーな色遣いとコミック・タッチのファンタジックな世界観という形で花開いているんですね。これ、スノッブな美術をひけらかしていたターセム・シン監督が『白雪姫と鏡の女王』でキッチュでポップな作風へと様変わりしたのと似たものを感じましたね。

ゴーシュ監督の色彩センスが最も生かされていたのはソーナム・カプールの衣装なんですね。1シーンごとにソーナム・カプールの衣装が違う!というのがなにしろ凄いんですが、しかもその衣装というのがどれもこれもカラフルな多色使いの柄物の組み合わせという難易度の高いもので、ソーナム・カプールが着ているからオシャレに見えるんですが、これって一歩間違うとただひたすらケバイだけの服装になるので一般人はマネしないように!っていうか、こんな洋服どこで売ってるんだよ!この衣装を見るだけでも女性の方は楽しいんじゃないかな。

もうひとつゴーシュ監督のセンスが生きていたのはそのおとぎ話チックな物語にもあるんじゃないでしょうか。背筋のピッと伸びたハンサムな王子様と普通の女の子の恋、ここからして既におとぎ話チックだし、日本の少女コミックにも探せばありそうですね。ハーレクイン・ロマンスにだってきっとあるでしょう。それを現代のインドを舞台にして描く際に、嘘くさくなく、かといって格調高すぎず、あくまでファンシーなセンスとコミカルで初々しいロマンス・ストーリーとしてきちんと描いた部分にゴーシュ監督らしさを感じました。

また、格式ばった貴族の屋敷に普通の女性が入り、その家の窮屈な雰囲気を次第に融かして、困難の未に貴族と結ばれる…といったプロットからは『王様と私』『アンナと王様』あたりをちょっと思い出しましたね。ただ、元気で自由闊達なミリーの描写は、逆に自由過ぎてガサツに感じる部分もあります。現代っ子でももうちょっと遠慮するものではないでしょうか。これはあくまでも保守的な貴族一家の対比としての描き方だと思いますが、もう少しうがった見方をすると、欧米的な自由さに、保守的なインドの生き方が変えざるを得ない局面に立たされていることを揶揄しているようにも思えました。

そして物語の大きな魅力となっているのはヒロインであるソーナム・カプールの見入ってしまうような美しさ、貴族の息子ヴィクラム役であるファワード・カーンの水も滴るイイ男ぶりでしょう。この二人がラブコメのお約束ともいえる、くっつきそうでくっつかない、キスしそうでキスしない、お互い意識しあってるのに表に出せずなんだか悶々とばかりしている様子、そしてその切なさが、じれったくもまたドキドキ感をあおってゆくんですよね。この作品はオシャレなラブコメディとして女性に人気を集めるでしょうが、オレのようなムサイおっさんですら始終によによしながら観てしまう楽しさがありましたね。