インド映画を巡る冒険(仮)

以前メインのブログに書いたインド映画記事のアーカイヴです。当時書いたまま直さず転載しておりますので、誤記等ありましてもご容赦ください。

内気青年の恋愛大作戦!?〜映画『Chhoti Si Baat』

■Chhoti Si Baat (監督:バス・チャタルジー 1975年インド映画)


とっても内気な青年が素敵な女子に恋したけれど、どうしていいのか分からない!おまけにイケイケな恋敵まで現れてさあ大変!いったいどうしたら彼女を振り向かせられるんだ!?という1975年にインドで公開されたロマンチック・コメディ映画です。主演の内気青年にコメディ映画『Gol Maal』(1979)のアモール・パルカー、ヒロインにヴィディヤー・シンハー、怪しい恋愛教授にアショク・クマール。それとアミターブ・バッチャンカメオ出演しております。この作品は1967年公開のイギリス映画『School for Scoundrels』を元にしていますが、この英作品は2006年にトッド・フィリップス監督、ジョン・ヘダー主演により『恋愛ルーキーズ』としてリメイクされています。

《物語》ボンベイに住むアルン(アモール)は地味で気弱で内気な青年でした。彼はバス停でいつも一緒になるOL女性プラーヴァ(ヴィディヤー)に恋をしますが、超弩級にシャイなアルンはなかなか声を掛けられず七転八倒。なんとかきっかけを作りデートに誘えたものの、今度はプラーヴァの同僚ナゲッシュ(アスラーニ)が現れ、恋敵として立ちはだかります。この男ナゲッシュ、いつも明るく快活で、図々しいくらい行動的、どうしたってアルンは見劣りしてしまいます。「こんなことじゃ彼女を取られてしまう!」切羽詰ったアルンは恋愛指南のエキスパートだという怪しい男、ジュリウス(アショク・クマール)の元を訪ねますが!?

いやこれは楽しかったなあ。1975年公開作ということでどうしてもコメディ・センスの古さや既視感は感じてしまうんですが、そういった部分を割り引きながら観ると、笑いの原型とも言える素朴な味わいになんだかほっこりさせられるラブコメなんですよ。

まず恋に悩む青年アルン君の見るからに情けない容姿がイイっすね。誰に説明されなくても「ああ、モテそうにないな…」という説得力に満ち溢れていますよね。行動自体もオドオドしていて「こいつ、単なるキモいヤツだよな…」としみじみ思えてくるんですよね。こんな若者ですから(老けて見えますけど)やることなすこと裏目裏目に出てしまい、そこが可笑しいのと同時に、そのしょーもなさに段々応援したくなってくるんですよ。いやー考えてみりゃこのオレも単なる非モテのキモいヤツだしな!なんだか他人事に思えないよ!

アルン君、なにしろいつも妄想しまくりです。彼女の前で堂々としている自分、彼女にカッコいいと思われている自分、そんなアルン君の寂しい妄想が映像となって現れます。しかーし!いざ実行に移すと必ず失敗するんですよ。食事に誘うと恋敵ナゲッシュが割り込んできて食事代まで払わされたりとか、バイクに乗って彼女を送り迎えしたい!とバイクを買ったら騙されてボロボロの中古を掴まされたりとか、仕舞いにはインチキ占い師に引っかかったりしてもうしょぼしょぼです。けれど鈍感なのかタフなのか、決して諦めずにプラーヴァに振り向いてもらおうと頑張ります!

そんなアルン君に惚れられたプラーヴァのほうはどうかというと、意外とアルン君を悪く思っていません。あんなにキモいのに。ただ「どんな男性なんだろう?」と観察している段階なんですね。「ちゃんと自分を大切にしてくれるのかしら?」と思ってるんですよ。だから話しかけられれば答えるし、食事に誘われたら取りあえず行ってみます。優しいお嬢さんなんですね。

物語はいよいよ切羽詰ったアルン君が恋愛指南のエキスパート、ジュリウスを訪ねるところから佳境に入ります。ジュリウス少佐、アルン君を徹底的に訓練して恋愛を成功に導くイロハを教え込み、遂にアルン君はモテモテ男に生まれ変わります!この辺の展開、「モテるマニュアル」を必死こいて漁る現代の若者に通じる所がありますね。しょーもなくも思えますが、切実でもあるんですね。しかしこの物語は「でもマニュアル通りの恋ってどうなんだろう?」という問い掛けも後に用意されていて、なかなかきちんと出来ています。

恋愛物語の多くはイイ男とイイ女がロマンチックに盛り上がりまくるものが多いですが、この物語はその辺の普通の男子が普通の女子に恋をしちゃう、というものです。さらにインドの、この時代あたりじゃあ自由恋愛も難しかったりするのでしょう。そんな中で、多分多くのインド人青年がそうであったように地味で気弱で内気な青年を主人公とし、そういったリアリズムの中に笑いを持ち込んで描いたこの物語は、きっと多くのインド人青年の支持を得たのではないでしょうか。なかなかにチャーミングで素敵な作品でした。