■Happy Bhag Jayegi (監督:ムダッサル・アズィズ 2016年インド映画)
結婚式を逃げ出してきたインドの女性が、気が付いてみたらパキスタンにいた!?ええ!?どうしたらいいの!?というロマンチック・コメディです。そもそもなんでパキスタンに行っちゃったのか?それはおいおい説明しましょう。出演は『Cocktail』(2012)のダーヤナー・ペーンティ、『Dev.D』(2009)、『Zindagi Na Milegi Dobara』(2011)のアバイ・デーオール、『Fukrey』(2013)のアリー・ファザル、『Tanu Weds Manu』(2011)、『Bang Bang!』(2014)ジミー・シャーギル、そしてパキスタン女優のモーマル・シャイフ。監督は『Dulha Mil Gaya』(2010)のムダッサル・アズィズ。
《物語》パンジャーブ州に住むハッピー(ダーヤナー・ペーンティ)は、冴えない音楽家のグッドゥ(アリー・ファザル)と愛し合っていたが、親の決めた別の男との結婚が迫っていた。二人は花屋の車を利用して駆け落ちを決行するが、手違いによりハッピーは全然別の車に隠れてしまう。そして彼女が気が付くと、パキスタンの町ラホールに住むある一家の元に到着していた!?びっくりしたのは家長であるビラール(アバイ・デーオール)、しかし事情を知った彼はハッピーがインドに帰れる術と、恋人グッドゥとの再会に骨折ろうとする。しかしハッピーに逃げられた男バッガー(ジミー・シャーギル)も、ハッピーを奪還しようと憤怒に燃えていた。
インドからパキスタンに迷子の娘を返しに行く物語、というとサルマーン・カーン主演のヒット作『Bajrangi Bhaijaan』(2015)ですが、こちらはパキスタンからインドに迷いこんだ娘を帰国させる、という物語になっているんですね。インドとパキスタン、印パ独立の頃から確執を抱え政治的緊張状態にある国同士、簡単に行き来することはできません。しかしそんな状況にありながら、この作品では相互の国民感情はそんなに悪いものではなく、主人公のビラールなどはむしろ積極的にハッピーの為に尽力します。袖振り合うも多生の縁とは言いますが、そういった暖かい人情噺としての面白さがこの物語にはあります。
ビラールはなぜそこまでしてハッピーの為に頑張ろうとしたのか。それは彼が政治家の卵であり、ある種の公正さや人間味を持った人間であったのと同時に、女性であるハッピーに魅せられた、という部分があります。そんなビラールですが実は既にゾーヤー(モーマル・シャイフ)という婚約者があり、そういった気持ちを決して表には出すことができません。とはいえ女の勘は鋭いもの、ゾーヤ―はそんなビラールの気持ちをなんとなく察しているんです。ゾーヤーは内心複雑ながら微妙にビラールに釘を刺しつつ、ハッピーの帰郷にも協力するんですよ。こういった決して成就しない中年男のプラトニック・ラブもこの物語には盛り込まれます。
こんなビラールを演じるアバイ・デーオール、自分の今まで観た彼の出演作はどこかどんよりとした汚れ役が多かったのですが、この作品では見違えるような公明正大な男を演じて好印象でした。ビラールの婚約者を演じるモーマル・シャイフも落ち着いた演技がとてもよかった。そしてビラールの手助けをする警察官のオッチャンがまた可愛いんだよなあ。そしてなによりこの作品の魅力を高めたのはハッピーを演じたダーヤナー・ペーンティでしょう。主だった主演作は『Cocktail』1作だけのようですが、ちょっぴりワイルドさを感じさせる美貌と、チャキチャキのパンジャブ娘を演じる様子には目が離せないでしょう。今後の活躍に期待したいですね。ただし恋人役のアリー・ファザルはなんだか魅力に乏しかったなあ。
インドとパキスタン、実際のお互いの国民感情がどのようになっているのかは分かりませんが、このところのニュースではパキスタンがインド映画を全面禁止にしたりとか、インド映画界がパキスタン俳優を締め出したりとか、なんだか寂しくなってしまう話が伝わってきています。最近のインド映画の国粋主義的な流れもどうにもきな臭く思えます。そんな流れのある中、例えフィクションでもそれぞれの国に住む人々が信じ合い許し合っている姿を観るのは、一人のインド映画好きとして何かほっとするものを感じるんです。映画『Happy Bhag Jayegi』は、こういった性善説でもって成り立っている物語の在り方が、とても素敵に思える作品でした。