インド映画を巡る冒険(仮)

以前メインのブログに書いたインド映画記事のアーカイヴです。当時書いたまま直さず転載しておりますので、誤記等あったらご容赦ください。

(インドの)セックス・ドラッグ・ロックンロール〜映画『Dev.D』

■Dev.D (監督:アヌラーグ・カシュヤプ 2009年インド映画)

■現代版「デーブダース」

ベンガル古典文学『Devdas』の映画化作品と言えばサンジャイ・リーラー・バンサーリー監督による2002年公開作『Devdas』が何しろ有名だろう。悲恋の末に酒で破滅する男を描いたこの物語は、シャールク・カーン、アイシュワリヤ・ラーイ、マードゥリー・ディークシトといった破格の出演陣とバンサーリー監督独特の絢爛豪華な美術により、堂々たる傑作として完成している作品だ。

その『Devdas』を現代を舞台に再話したのがこの『Dev.D』だ。主演は『Zindagi Na Milegi Dobara』『Raanjhanaa』のアバイ・デーオール、二人のヒロインを『ダバング 大胆不敵』でマッキーの恋人役を演じたマーヒー・ギル、そして『マルガリータで乾杯を!』『若さは向こう見ず』のカルキ・ケクラン。監督は『Black Friday』『Gangs of Wasseypur:Part1,2』『Ugly』のアヌラーグ・カシュヤプ。また、『トレイン・スポッティング』のダニー・ボイル監督に謝辞が捧げられており、なんらかのアドバイスがあったものと思われる。

《物語》ロンドン留学から帰ってきた実業家の息子デーヴ(アバイ・デーオール)は、幼馴染の娘パーロー(マーヒー・ギル)との再会を心待ちにしていた。しかし一時は激しく燃え上がった二人の愛もデーヴの勘違いから破局を迎え、パーローは他の男と結婚してしまう。心破れ酒と麻薬に溺れながらも、デーヴは未練心からパーローの移り住んだデリーへと向かう。そこで彼は売春宿に入り浸る様になり、そこで働くチャンダー(カルキー・ケクラン)という少女にのめり込んでゆく。だがデーヴのパーローへの想いは消え去ることがなく、孤独と絶望の中デーヴは破滅へ坂道を転げ落ちてゆくのだ。

■セックス・ドラッグ・ロックンロール

とまあなにしろ『Devdas』なのだが、2002年版と違う所は、まず舞台が現代であり、そして薄汚いデリーのドヤ街であること、デーヴとパーローの奔放なセックス・シーンがあること、デーヴとパーローはそれぞれの両親に引き裂かれたわけではなく、デーヴの嫉妬心から引き起こされ、パーロー自体は自分の結婚に満足していること、などが挙げられる。要するにこの物語では、「引き裂かれた恋人同士の運命の悲劇」というよりは、「メンタルが弱く甘ちゃんな金持ちのボンボンがまともにコミュニケーションできないばかりに勝手に自滅してしてしまう物語」である、ということだ。

『Dev.D』で描かれる「デーブダース」の物語は下品で下世話で、その映像は原色の踊るポップかつヴィヴィッドなものであり、描かれる主人公の性格は自己中心的で幼稚であり、ぶっちゃけかなりしょーもない。映画全体がPV的なセンスに溢れ、破滅的な主人公の姿自体がロックンロールといえないこともない。映画はこうしてセックスとドラッグに溺れる主人公が激しいロック/ポップ・サウンドをバックに描かれることになり、まさしくインドの「セックス・ドラッグ・ロックンロール」映画として完成している。

これは格調高い文学作品を眩惑的な美しい美術で描き切った2002年版と真逆な表現であり、ある意味非常に野心的であるということができ、そしてそれは十分成功していると思う。いわばこれはシェイクスピア原作のイギリス古典戯曲『ロミオとジュリエット』をフランコ・ゼフィレッリ監督が古典そのままに再現した1968年公開の同タイトル映画作品と、バズ・ラーマンが舞台を現代に置き換え下世話にヴィヴィッドに表現してみせた『ロミオ+ジュリエット』(1996)との関係に似ているかもしれない。

■ダメ人間の物語

まあしかし、「酒と麻薬とセックスに溺れる現代のデーブダース」という内容にそれほど食指が動かなかったのも確かで、そこそこに評価されているのは知ってはいたが、実のところ観なくてもいいかなと思っていた作品だったし、実際観てみても、想像の範疇を超えるような驚きや新鮮さは感じなかった。そもそも個人的にこの物語のような「ダメな人間がダメな人間ゆえにさらにダメなる」という物語がオレは大嫌いだ。たとえ結果が最悪だろうと自助努力のない物語に魅力を感じないのだ。だからハリウッドのジャンキー映画は好きではないし、インド映画『愛するがゆえに』も観ていて「情けない奴だな」程度の感想しか持たなかった。

そんなわけでこの作品も「勝手に自滅しろよ」としか思えなかったのは確かだ。あと主人公が不細工だったのもノレなかった原因かな。それと併せ、これまで観たアヌラーグ・カシュヤプ作品は、どれも完成度が高いとは思うのだが自分にはあまり合わない監督のようで、それはリアリズムと露悪を取り違えているような部分を若干感じるからだが、それでこの『Dev.D』もイマイチな感想しか持てなかったかも。まあしかし、あのラストは嫌いではない。

ただひとつよかったのはカルキ・ケクランが予想に反してとてもいい味をだしていたことだ。これも個人的な話ではあるがオレはこの女優がどうも苦手で、彼女の出演した『Zindagi Na Milegi Dobara』も『若さは向こう見ず』にもどうにも違和感があったのだが、この作品のカルキ・ケクランにはすっと入ってゆける部分があった。彼女はこの作品のようなある種のアンビバレンツを抱えた女性役をやらせたほうが光るということなのではないだろうか。

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