インド映画を巡る冒険(仮)

以前メインのブログに書いたインド映画記事のアーカイヴです。当時書いたまま直さず転載しておりますので、誤記等ありましてもご容赦ください。

御大サルマーン・カーンが大胆不敵な大泥棒を演じる大ヒット作『Kick』

Kick (監督:サージド・ナディアードワーラー 2014年インド映画)


『ダバング 大胆不敵』のサルマーン・カーンが主演となり、またもや大胆不敵な男を演じるというアクション大作です。今回のサルマーンさんの役どころは神出鬼没な大泥棒。タイトルの『Kick』は「刺激」を意味するらしく、主人公はその人生に「刺激」を求めて大暴れするというわけです。この作品は2014年7月に公開され大ヒットを記録しました。

主人公の名はデーヴィー・ラール・シン(サルマーン・カーン)。人生に「キック(刺激)」を求める彼にとって、たいていの仕事は退屈すぎて長続きしません。そんな彼が駆け落ちカップルを助けるため大立ち回りを演じているとき、精神科医シャイナ(ジャクリーン・フェルナンデス)と出会い、いつしか二人は恋に落ちます。しかし刺激に満ちた破天荒な生き方を愛するデーヴィーは結局シャイナと別れることになってしまいます。月日が経ち、シャイナは親の勧める結婚相手で、警察官でもあるヒマンシュ(ランディープ・フーダー)にかつての恋人デーヴィーの思い出を語ります。しかしヒマンシュは知りませんでした。このデーヴィーこそが、今彼が捜査を続ける大泥棒「デヴィル」の正体であることを。

この『kIck』、とりあえずサルマーンさんの面目躍如ともいえる作品として仕上がっています。オープニングから「うわー金掛けてんなー」と思わせるシーンが目白押しなんですよ。海外ロケ、ド派手なアクション、豪華セットのダンス・シーン、今や押しも押されぬインドの人気大スターとなったサルマーン・カーンの映画なんだから大ヒット目指してお金掛けないわけにはいかないだろ!?という製作者の意気込みが伝わってきますね。

前半の「遊び人のサルマーンさん」キャラはいつも通りインチキ臭くて楽しいうえに、豊富なダバング・ネタを散りばめてくれていて、観ていてニヤニヤが止まらないんですね。『ダバング』1,2作で出てきたおかしな太っちょの悪者も出てきて今回もイジられているぐらいです。おまけに主人公のお父さんまでインチキ臭くてこれまた愉快なんですね。ヒロインを演じるジャクリーンさんも大変な美人で目の保養になります。

後半ではいよいよ主人公の裏の顔である大泥棒デヴィルが登場し、奇想天外な盗みの数々を見せます。そしてデヴィルの宿敵である刑事ヒマンシュとの確執も激化してゆくんですね。また、デヴィルが狙う大富豪シヴを『女神は二度微笑む』『めぐり逢わせのお弁当』のナワーズッディーン・シッディーキーが怪演しているところも見どころの一つとなります。そしてクライマックスではなんと…おおっと言えねえ言えねえもう言えねえ!

そんな『kIck』なんですが、このゴージャス感ってなーんかどっかで観たことあるよなあ、と思ったら『チェイス!』なんですね。大泥棒が主人公という以外ストーリーが似ているわけではないんですが、この作品が2013年にインドでナンバーワンヒットを記録した『チェイス!』をなぞるような形で制作されているような気がちょっとだけしましたね。ただ、『チェイス!』が派手であると同時に大変ユニークな脚本を展開していたのと比べ、この『kIck』も派手で楽しいけれども、惜しいことに大味でもあることも確かなんですよ。

それというのも主人公デーヴィーさんが実はとある善意を成すために大泥棒になったっていう設定があるからなんですが、これによりデーヴィーさんのキャラがどっちつかずの曖昧なものになってしまっているんですよ。そもそも「人生に刺激が欲しい」と言って生きていた刹那的なキャラだったはずだし、それが義賊になるのはかまわないとしても、向かってくる相手は半殺しにしてみたりするんですよね。しかもその「善意」というのが『Jai Ho』あたりのちょっとした臭さがあって…。まあそんな部分さえ気にしなければゴージャス感たっぷりの大ヒット作として楽しめると思うんですが。