Mardaani (監督:プラディープ・サルカール 2014年インド映画)
タフでクールな女刑事が悪党どもをぶちのめす!というインドのクライム・アクションです。
主人公の名はシヴァーニ(ラーニー・ムカルジー)、彼女はムンバイ警察の腕利き刑事です。そんな彼女も家庭では良き妻であり、実の娘の他に孤児の娘ピャーリを我が子のように世話していました。しかしある日そのピャーリが行方不明になります。なんと彼女は売春斡旋目的の人身売買組織に、多数の少女と共に誘拐されていたのです。事件性を嗅ぎつけたシヴァーニは捜査を開始し、事件の関係者と思しき男を拘束します。それを知った組織の首領カラン(ターヒル・ラージ・バシン)はシヴァーニへ電話し、捜査から手を引くよう脅しますが、そんなカランをシヴァーニは鼻で笑ってこう言い捨てます。「30日以内にあんたを捕まえる。待ってな、ガキ」
初っ端からもう、いい感じの映画です。主人公シヴァーニさんは刑事仲間と共に夜の街を車で流しながら、上司なんかを肴にしつつ緩~くだべっています。ここで既にシワーニーさんが階級的に上であり、一目置かれている存在であることが伝わってきます。その後スラムのチンピラの部屋に押し入りますが、この時のシヴァーニさん、サリー姿で拳銃構えちゃってるんですよ!サリーに拳銃の女刑事(デカ)!もうこれだけでタランティーノあたりが鼻水垂らして喜びそうですね。これが「太陽にほえろ!」の七曲署捜査第一係だったらニックネームはすぐさま「サリー」に決まりそうです。(ただしサリー姿は冒頭だけです)
そしてサリー刑事(デカ)、もといシヴァーニさんはカスみたいなチンピラどもを、どこまでも余裕綽々であしらいます。犯罪組織の首領からの電話にすら「おい聞けやガキ」とひたすら見下した態度をとり、口の端には冷たい笑みを浮かべ、その態度はどこまでもクール、そしてハスキーな声からは年季と経験がうかがえます。シヴァーニさんは見たところ30代から40代、脂の乗った刑事であり女なのです。しかしいざ追跡となると、これが疾風のように駆け、豹のように相手に飛びかかり、そしてこれが格闘ともなると、ヒグマのように不撓不屈のタフな戦いを見せるのです。クールでタフ、これがシヴァーニさんなんですよ!きゃあカッコイイ!
かと言ってこの映画は『ダバング 大胆不敵』のチュルブル・バンディや『Singham』のインスペクター・スィンガムみたいな荒唐無稽なウルトラ・マッチョ・アクションを見せるものではありません。話の流れはダークでリアル、その語り口調は舞台がインドなのにも関わらずどこかアメリカの刑事ドラマのような殺伐とした世界を感じさせます。ここで登場する人身売買組織はどこまでも冷酷非道であり、すすり泣く少女たちを男どもの慰みものとして供出するさまの陰惨さは、インドにおいて成人指定になったほどなのです。
この人身売買組織とシヴァーニさんとの正面対決が物語の中心となりますが、そこには刑事の執念と同時に、我が子のように世話していた孤児の娘に対する、仮とはいえ一人の母としての執念もあったのではないでしょうか。すなわち、一見「女だてら」「男勝り」の刑事を描く物語のようでいて、その本質には、女の持つタフさ、母親の持つどこまでも粘り強い子供への執着、それを描いたのがこの物語ではないかと思うのです。女は、本気を出せば、男なんか敵わないほどに、強くなれる。それは愛する者を奪われたならなおさらのことだ。自分たちは虐げられてばかりじゃない、そんな女たちの声がこの映画にはあるように感じました。