インド映画を巡る冒険(仮)

以前メインのブログに書いたインド映画記事のアーカイヴです。当時書いたまま直さず転載しておりますので、誤記等ありましてもご容赦ください。

ボリウッド・スターの謎の死を追え~映画『Talaash』

■Talaash (監督:リーマー・カーグティー 2012年インド映画)


ボリウッド・スターの謎の死を巡り、一人の捜査官が事件の真相に迫ってゆく、というサスペンス・スリラーです。主演はアーミル・カーン、カリーナー・カプール

ムンバイで深夜、海岸通りを走っていた車が突然ハンドルを切り、海へと突っ込んでいった。引き上げられた車から発見された死体は、ボリウッド・スターのアルマーン・カプール。ムンバイ警察のスールジャン(アーミル・カーン)は事件の捜査を開始するが、アルマーンの死体からは酒も薬物も反応が出ず、トップスターの彼に自殺の動機も無かった。しかし当日、アルマーンが多額の金を運んでいて、そしてそれが消えていることが分かった。捜査に行き詰るスールジャンだったが、その彼の行く先々に、謎の娼婦ローズィー(カリーナー・カプール)が現われる。事情聴取目的でローズィーに近付くスールジャンは、しかし次第に彼女に惹かれてゆく。スールジャンにはローシュニー(ラーニー・ムカルジー)という妻がいたが、子供を亡くしたことでお互いが冷え切っていたのだ。一方、とある娼館で一人の男が、多額の金の入ったバッグを隠し場所から取り出し、緊張した面持ちで何者かに電話を掛けていた。

この物語、謎の死を遂げたボリウッドスターが、なんらかの形で娼館に関わっていたのだろうことは早い段階から分かります。スターで娼館で金ですから、それがどういう繋がりなのかは想像が付くでしょう。しかし娼婦とのスキャンダルだけでこれだけ多額のお金が動く理由が分かりません。だから事実は別の部分にあるようなんです。さらにスールジャンに近付く娼婦ローズィーの真意が謎なんです。事件の真相を知るのかどうなのかおくびに出さず、何か思わせぶりのことを言うだけなのですが、それが真実なのかどうなのか疑わしいんです。彼女は真相を伝えたいのか?それとも捜査を攪乱するためにスールジャンを迷わせているのか?こういった部分も謎なんですね。

この物語を奇妙な方向に持っていくのが主人公スールジャンと妻のローシュニーの関係です。二人の間にはかつて男の子がいたのですが、ある事故により湖で行方不明になります。スールジャンはその悲しみを決して表には出さず耐え忍びますが、ローシュニーの心はすっかり壊れてしまっています。二人はこの事件を語りたくないばかりに冷めた関係になっていたのですが、ある日ローシュニーに霊媒師を名乗る女が近づくんです。亡くなった子があなたに語りかけている、という霊媒師の言葉にローシュニーは魅入られてしまい、頻繁に通い始めるようになってしまうんですね。それを知ったアルマーンは激怒、二人は言い争いになり、その溝はさらに深まってしまうんです。

スールジャンと妻のローシュニーのこのエピソードは、物語の殆ど半分ぐらいのウェイトを占めているのですが、事件捜査といったいどう関わっているのか全然描かれないし分からないんです。むしろ最初から関わりは無くて、この物語自体が、実は事件捜査それ自体よりも、警察官夫婦の悲嘆に満ちた人生を描くことが目的なのだろうか、と思えてくるほどです。いやしかし、霊媒師の婆さんはどう見たって怪しげだし、こうして警察官夫婦に近付くのは、なにか魂胆があるからなのではないか…と観ているこっちは疑いたくなってくるんですね。そうこうしているうちに、スールジャンの知らないところでは娼館の男たちが大金を巡って命を落としたり新たな計略を練っていたりするのですよ。

とまあ、悪くはないけどどうも中途半端なドラマだなあ、と思ってラストまで観ていたら、ライマックスでとんでもない真相が明らかになります。ええ、観ていたオレ、マジで鳥肌立ちました。うああそう繋がるのかそうかそうだったのかああ!!なんとなくそういうことなのかと思ってたらホントにそうだったのかあああ!でも普通に怖いって!!ヤヴァイって!マズイって!!

…というわけで、話の流れにちょっと疑問持ちながら観ていたら最後にびっくりさせられる、とまあそういうお話なんですよ。アーミル・カーンは終始苦虫噛みつぶしまくったような怖い顏して存在感を十二分にアピールしてますし、カリーナー・カプールは実はそんなに好きな女優さんじゃないんですが、妖しくはかなげな娼婦を魅力的に演じていたと思いますよ。この二人を観るだけでも楽しめる作品でしたね。