インド映画を巡る冒険(仮)

以前メインのブログに書いたインド映画記事のアーカイヴです。当時書いたまま直さず転載しておりますので、誤記等ありましてもご容赦ください。

インドの事をあれこれ勉強してみた (その1)

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Photo by Sylwia Bartyzel on Unsplash

ヒンドゥー教ってなんだろう?という部分から始めてみた

インド映画はとても面白いし、目も彩なインドの文化もそれはそれで楽しいのですが、実の所自分はインドについてまるで知りません。もちろんヒンディー語を始めとするインド言語は理解できませんし、インド映画を観るまではインドの主要都市がどこにどうあるのかすら全く知りませんでした。インドの歴史も経済も知らなかったし、ヒンドゥー教がどういったものであるのかも知りません。インドについて読んだことがある本は椎名誠の紀行本とねこぢるの漫画だけです。もっと言うとインドは遅れていて貧乏で不潔で無知蒙昧な人々の暮らす国とすら思ってました。インドの皆さん、本当にどうもすいません。遅れていて貧乏で不潔で無知蒙昧な人間はこの自分でした。

インド映画を観るようになって、インドのことをもっと知りたい、と思うようになりました。それは憧れとかではなく、「何かとんでもないものがありそうなのに全く掴めない」という戸惑いからでした。「何か物凄いものが存在しているのに全く無知だった」という焦りからでした。知見の狭い自分を恥じたのです。インドの美しさ素晴らしさは理解できます。しかしそれだけではないもっと複雑怪奇なものがインドには存在していて、手放しに「インドは素晴らしい!」と言えない部分がありました。その複雑怪奇な部分も含めて、「実際どうなっているのか」ということをきちんと知りたくなりました。インドという国は、多分自分には一生異質な国なのだと思いますが、その全容を知らずに意見や感想を持ちたくなかったんです。まあその全容だって、全て知ることは無理だとは思いますが、知ろうとする努力だけはしたかったんです。

そもそも自分には他の外国の国も異質だし、日本だって実はなんだか異質なぐらいに思っています。海外旅行も興味無いし、世界情勢もネットで流し見する程度で、国際感覚のコの字も存在しません。そんな自分に「知りたい」と思わせたインドは、やはりどこか特別な魅力というか魔力の存在する国なのでしょう。そんなわけでささやかながら勉強しようと思い何冊か本を手に取り、とりあえず読んでみました。インド通の方から見ればお粗末で噴飯ものの内容でしょうが、とっかかりということでお許しを。選択の際注意したのは「日本人がインドに行ってびっくりした」といった類の体験本には手を出さない、ということ、とりあえずヒンドゥー教ってなんだろう?という部分から始める、ということでした。

ヒンドゥー教 インド三〇〇〇年の生き方・考え方 / クシティ・モーハン・セーン

インド人ヒンドゥー教徒によって書かれたヒンドゥー教入門書。「ヒンドゥー教に関して予備知識をもたない、一般の読者を対象に書かれている」ということから、最初のとっかかりに最適だと思って読んでみることにしました。200ページ程度の本で、これを読んだだけでヒンドゥー教が分るとは思っていませんが、あらましだけでも掴んでおこうと思ったわけです。第1部が「ヒンドゥー教の本質と教え」、第2部が「ヒンドゥー教の歴史」となっており、非常に要点を濃縮した内容で、キーワードと簡略化された説明がポンポンポン!と飛んでいき、これはこれで読み応え十分ですが「詳しく知りたかったらもっと勉強せえよ」という含みもあり、最初の1冊としてこれほど的確な本はないと思わせてくれました。それと、インド人著者だけにインドに対する誇りが透けて見えるのがよかったですね。そしてこの本でなにより目から鱗が落ちたのは、「ヒンドゥー教多神教ではなく一神教である」という記述ですね。『ウパニシャット』では万物に遍在する「神」をブラフマンと呼びますが、ヒンドゥー教で礼拝される様々な神はこのブラフマンの人格化された化身の一つに過ぎず、全ての祭祀は実は唯一神ブラフマンを崇める行為に通じている、ということなんですね。『ウパニシャット』においては「自己」をアートマンと呼びますが、そのアートマンもまたブラフマンの一部であり(不二一元論)、神/人間の二元論で成り立つ他の宗教と違い、ヒンドゥー教はヨーガによって自らの裡にある神=ブラフマンを見出すことがその教義とされているんですね。

ヒンドゥー教―インドの聖と俗 / 森本達雄

ヒンドゥー教―インドの聖と俗 (中公新書)

ヒンドゥー教―インドの聖と俗 (中公新書)

インド滞在経験の長い邦人インド研究者によるヒンドゥー教本。これなどはまさに日本人視点から「インドとかヒンドゥー教ってどういうものなのだろう?」という好奇心や興味に寄り添う形で書かれているのが面白かったですね。扱われる素材は広範で雑多、バランスもまちまちなので、主観的な記述も若干ながらあると思いましたが、そもそもたった1冊の本でインドの全てを説明することはできませんから、これでも結構詰め込んでくれているのではないでしょうか。ともかく2冊目としてはこれもいい本でしたね。

インド神話マハーバーラタの神々 / 上村勝彦

インドの神様って沢山いますが、なにがどれでどうなっているのかきちんと知っとこうと思い、読んでみることにしました。手に取るまで知らなかったのですが、著者はインド研究の日本における第一人者だった方らしく(故人)、厳密な記述に注意を置き、的確な比較が繰り返され、まるで講義でも受けているかのような身の引き締まる読書体験でしたよ。内容としては表題にあるように「マハーバーラタ」の神々を中心としており、つまりそれ以前の「ヴェーダ文献」にある神々はさわりだけに紹介といった形にとどめられています。そしてこれはまた、神々の名前を羅列して紹介する本ではなく、マハバーラタの物語を紹介しながらそこでどう神々が活躍したのかが書かれているのですよ。そしてこのマハバーラタの物語がまた面白い。つまりどういうことかというと、この本を読むとマハバーラタを読みたくなる、という危険な本でもあるのですよ…。

(次回に続く)