インド映画を巡る冒険(仮)

以前メインのブログに書いたインド映画記事のアーカイヴです。当時書いたまま直さず転載しておりますので、誤記等ありましてもご容赦ください。

インドのファンタジー映画『アラジン 不思議なランプと魔人リングマスター』はインド映画に馴染の無い方こそ楽しめる作品かもしれない

■アラジン 不思議なランプと魔人リングマスター (監督:スジョイ・ゴーシュ 2009年インド映画)

■インド産のファンタジー・アドベンチャー映画

日本でもDVD販売されていて観ることのできるインド映画の1作、『アラジン 不思議なランプと魔人リングマスター』をやっと観ました。自分は最初、タイトルがタイトルだし、「子供向けっぽいなー」と思ってスルーしたまますっかり忘れていたんですよ。

ところがこの間、この作品の出演者がかなり豪華なインド俳優陣で占められていることを知り、あわてて観てみることにしたんです(ちゃんと調べろよオレ)。いやアナタ、なんとアミターブ・バッチャンとサンジャイ・ダットで、リテーシュ・デーシュムクでジャクリーン・フェルナンデスですよ。

しかもお話のほうも、想像以上に楽しく作られたファンタジー・ドラマで、大人(の筈)のオレが観ても遜色のない出来でした。確かにファミリームービー的な無難さはあるにせよ、これを「子供向け」と言ってしまったら、ハリウッドで作られているような見栄えのいいCGでキラキラしたファンタジー作品も全部「子供向け」になっちゃうでしょう。

この作品で使われているVFXがどの程度のレベルなのか語る知識は自分にはありませんが、少なくとも物語をきちんと見せる道具として十分機能していたし、また、決して「見栄えのいいCGだけの作品」には陥っていないと感じました。それはとても物語が充実していたからということなんですよ。だからこの作品はインド映画がどうとか言う以前に、ハリウッド製のVFX映画、ファンタジー映画に慣れ親しんだ方にこそ観て欲しい作品だと感じました。

■物語

時代は現代、舞台となるのはインド北部の架空の街カーヒシュ。ここに、両親に「アラジン」と名付けられたばかりに子供の頃から苛められ続けてきた青年(リテーシュ・デーシュムク)がいました。実は彼の両親は「アラジンのランプ」が実在することを突き止め、調査に出掛けた氷河地帯で謎の死を遂げていたのです。

孤児となったアラジンは大学生となった今でも孤独な生活を送っていましたが、ある日アメリカからやってきた留学生ジャスミン(ジャクリーン・フェルナンデス)に恋をします。しかし滅法シャイな彼はジャスミンに声を掛けられません。そんなある日彼は運命か偶然か、あの「アラジンのランプ」を手に入れることになり、そのランプから魔人ジーニアス(アミターブ・バッチャン)が現れて「3つの願いを聞き届けてやる」と言い放ちます。

一方、カーヒシュの街にサーカス団に成り済ました不気味な一団が近づいていました。首領であるリングマスター(サンジャイ・ダット)は「アラジンのランプ」を追い求め、その力で世界の征服を企んでいました。彼はこの街にランプがあることを突き止め、青年アラジンを亡き者にしたあとランプを手に入れるつもりだったのです。そしてこのリングマスターこそが、アラジンの両親の死の原因ともなった男だったのです。

■交差する幾つかのエピソード

物語は幾つかのエピソード要素が平行しつつ混じりあいながら語られてゆきます。

1.アラジンの両親の死の秘密
2.苛められっ子アラジンの日常
3.ジーニアスとの出会い、そして"3つの願い"
4.ジャスミンとの恋
5.暗躍するリングマスターとの戦い

この中で前半部分を占める「ジーニアスとの出会い、そして"3つの願い"」はコメディ要素満載でなにしろ出色でしょう。アラジンとジーニアスの「ボケとツッコミ」みたいな掛け合いがとても楽しいんですよ。

さらになんでも思い通りになるはずの"3つの願い"を「ジャスミンとの恋」で使いたいのに、アラジンは全然きちんと願うことができなくてこれまた笑いを誘います。そしてジーニアスとコンビを組むことで「苛められっ子アラジンの日常」がどう変わってゆくのかも見所です。

それに対し後半の「暗躍するリングマスターとの戦い」では物語がどんどんダークサイドに向かいます。ジーニアスとリングマスターとの過去の因縁もここで語られるんですね。こういった、恋、笑い、謎、アクションが混じりあいながら進行してゆくストーリーがとても楽しいんですよ。

■素晴らしい配役とキャラクター造形

そしてこの物語を面白くしているのは、登場人物たちのキャラ造形にあるでしょう。最初に主人公アラジン。彼は子供の頃から苛められっ子で、青年となった今でも悪ガキどもに苛められ、せっかく恋したジャスミンすら横取りされかけています。要するに情けないダメ男クンなんですね。同時に彼は幼い頃に両親を亡くした孤独な青年でもあります。こんなアラジンを「インド映画界で情けない男を演じたら右に出る者のいない」と思われるリテーシュ・デーシュムクが演じております。

彼が恋するジャスミンを演じるジャクリーン・フェルナンデスはインド女優の名に違わずたいへんな美人ちゃんです。この作品がデビュー作ですが、その後の彼女の大活躍ぶりを見るとなかなかに感慨深いです。

一方魔人ジーニアスは、現代が舞台とあってか実にお洒落で派手なジャケット・スタイルで登場します。「ランプの精」から想像されるインドインドした格好じゃなく、クールで実にカッコいい。性格は鷹揚で威厳に満ち、同時に妙なユーモア・センスを持っています。こんな魔人をインド映画の帝王アミターブ・バッチャンが演じるのですからはまり役以外の何物でもないでしょう。

「魔法のランプ」を手に入れ世界征服を企む男リングマスターは、ヘラヘラと笑いおどけた調子で残虐行為を行うというバットマンの悪役・ジョーカーのような男です。彼は『スーサイド・スクワッド』みたいな邪悪なルックスの悪党集団を引き連れ、邪な悪行を成そうと暗躍します。さらに彼は太古の不思議な道具を操り、ジーニアスの弱点すら把握しているのです。ね、敵役として申し分ないでしょ?こんなリングマスターをボリウッド界で悪党をやらせたらピカイチのサンジャイ・ダットが演じているんですね。

■インド映画にあまり興味の無い方にこそ観て欲しい作品

こんな具合に、この作品は単なるファンタジーというよりはどことなくハリウッドのアメコミ映画に通じる部分があるんですよ。まあ昨今のアメコミ映画は相当シリアスな領域に足を踏み入れているので、コメディ部分も強いこの『アラジン』をアメコミ映画と同等などと言うつもりもないんですが、超常能力を使う人外なヒーローが登場し勧善懲悪を行う荒唐無稽で稀有壮大な物語、といった点では共通したセンスを感じるんですよ。そういった部分でまずアメコミ映画好きなファンに行けそうな気がします。

さらに「インド映画を観てみたいけど何から観ればいいのかわからない」といった方にも、インド映画としては若干ライトなこの作品はイケルんじゃないかな。だって上映時間2時間ぐらいなんですよ。「日本で観られるインド映画お勧め」というと『きっと、うまくいく』や『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』なんかが挙げられるかと思いますが、方や人間ドラマ、方やロマンスがメイン、おまけに両方とも上映時間がとても長いもんですから、「興味ついでにちょっと観る」には敷居が高い方もいるでしょう。

そしてファンタジー作品として老若男女誰でも楽しめる事請け合いでしょう。もちろん家族揃ってみんなで観ても全然問題ありません。というわけで、「ちょっとインド映画を観てみたい」アナタ、この『アラジン 不思議なランプと魔人リングマスター』などはいかがでしょうか。