インド映画を巡る冒険(仮)

以前メインのブログに書いたインド映画記事のアーカイヴです。当時書いたまま直さず転載しておりますので、誤記等ありましてもご容赦ください。

『女神は二度微笑む』のスタッフが集結して製作されたサスペンス・スリラー作品『Te3n』

Te3n (監督:リブー・ダスグプタ 2016年インド映画)


8年前と同じ手口の誘拐事件が発生。迷宮入りしたかつての事件の被害者、捜査した警察官らが再び集い事件解決に挑む、という2016年に公開されたインド産サスペンス・スリラー映画です。タイトル『Te3n』は「Teen」の当て字みたいなもので、ヒンディー語で「3」の意味なのだとか。

この作品、なんといっても名作インド・スリラー『女神は二度微笑む』(2012)のスタッフが集結して製作されているというのが見所ですね。製作が『女神〜』の監督スジョーイ・ゴーシュ、そして『女神〜』主演のヴィディヤー・バーラン、ナワーズッディーン・シッディーキーが出演しているというんですから見逃せません。さらに舞台は『女神〜』と同じコルカタです。主演はアミターブ・バッチャン、監督は『Michael』(2011)、アミターブ主演によるTVシリーズ『Yudh』のリブー・ダスグプタ。ちなみにこの作品、韓国映画『悪魔は誰だ』(2013)のインド・リメイク作品となっていります。

《物語》8年前、誘拐事件により孫娘を失った老人ジョン・ビスワス(アミターブ)は、未だ解決されないこの事件の捜査進展を聞きに警察に訪れるが、警部サリタ(ヴィディヤー)からは色よい返事を聞けなかった。一方、かつてこの事件を担当していた警部マーティン(ナワーズッディーン)は、捜査失敗による罪悪感から神父へと身を変えていた。そんなある日、8年前と全く同じ手口の誘拐事件が発生する。サリタは捜査協力の為マーティンを呼び寄せ、事件解決のため奔走する。一方、ジョンはある証拠から事件真犯人の糸口を掴み、徐々にその人物へと近付いていた。

原作である『悪魔は誰だ』は残念ながら未見なんですが、韓国産サスペンス・スリラーというと綿密なプロットと残酷なまでのリアリティにこだわった作品、というイメージがあります。この『Te3n』も原作のそういった部分を踏襲したのか、非常にしっかりしたミステリー構造を成し、錯綜した事実から真実を導き出すといういわば"謎解き"をメインとしたプロットとなっています。この物語では「真犯人は誰か?」「なぜ8年前と同じ誘拐事件が引き起こされたのか?」という部分がそれに当たるでしょう。観る者は物語に張り巡らされた謎や伏線を的確に見定めながら自らも事件の真相を推理してゆくことになるんですね。

ただ、個人的にミステリーが得意じゃないというのもあるんですが、非常によく出来ていることは理解しつつも、こういったミステリー構造がちょっと窮屈に思えて、今ひとつすっきりした感想じゃ無かったんですよねえ。なんていうんでしょう、トリックの為に物語が奉仕している、という部分が苦手だったのかなあ。原作はきっと秀逸だったのでしょうが、それをあえてインド映画としてリメイクする必然性(つまりインド映画としての独自性)もあまり感じなかった。それと併せ、特に後半の時制の分かり難い描写の在り方は、これはミスリードを誘ったものなのか自分の理解力の足りなさのせいなのか分かりませんが、ちょっと卑怯に感じたなあ(あ、「そんなもん普通分かるだろ?」と言われそうだ……)。それと登場人物全員が最初から周知のことである筈の「最初の事件の娘の死」の真相が最後に明かされるのもなんか変な感じがしたなあ。

主演のアミターブ・バッチャンは最近の作品の多くと同じように徹底的にお爺さん演技に徹しており(まあ実際お爺さんだから当たり前ですが)、にもかかわらずどの作品のお爺さんともやっぱり違う、という部分が流石だなあと思わされました。一方ヴィディヤー・バーランはどちらかというとゲスト出演ぽくて、あえてヴィディヤーじゃなくてもよかったような役柄だったかなあ。そしてナワーズッディーン、この人はルサンチマン抱えた演技させたらやはり右に出る者はいないと感じました。作品は個人的にはまあまあだったんですが、完成度はそれなりに高いと思われますので、サスペンス・スリラー好きの方は是非チャレンジするべき作品でありましょう。

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