インド映画を巡る冒険(仮)

以前メインのブログに書いたインド映画記事のアーカイヴです。当時書いたまま直さず転載しておりますので、誤記等ありましてもご容赦ください。

ゴアに住むお婆ちゃんに会いたい〜映画『Barefoot to Goa』

■Barefoot to Goa (監督:プラヴィーン・モチャール 2015年インド映画)


「病気のお婆ちゃんに会いに行こう」。ムンバイに住む幼い兄妹は両親に黙ってゴアを目指す。2015年にインドで公開されたインディペンデント映画『Barefoot to Goa』は小さな子供たちが中心となって描かれるロードムービーだ。監督はこれがデビュー作となるプラヴィーン・モチャール。この作品は2013年にムンバイ・フィルム・フェスティバルで上映され好評を博し、その後も数々の賞を受賞している。

《物語》ムンバイに住む幼い兄妹、10歳の兄プラカー(プラカー・モチャール)と8歳の妹ディヤ(サーラ・ナハー)は、部屋で偶然祖母の手紙をみつける。封さえ開けられていないその手紙には、家族が遊びに来てくれないので寂しがっていること、実は癌を患っていてもう長くないことが書かれていた。そのことを両親に伝えようとした兄妹だったが、父は既に出張しておらず、母はまるで取りあおうとしなかった。母は手紙の封さえ開けないほど祖母を疎ましく思っていたのだ。放っておいたらお婆ちゃんは明日にも癌で死んじゃうかもしれない……そう思った兄妹は両親に告げず二人だけで祖母の元へ旅立つことにする。祖母は、遠いゴアの街に住んでいた。

インドのムンバイと言えば華やかなボリウッド産業でも知られる大都会だ。一方ゴアは避暑地ともして知られる風光明媚な土地である。ゴアが舞台の映画は沢山あるが、この作品と同じロードームービーとしてはディーピカー・パードゥコーン主演の『Finding Fanny』(2014)が挙げられるだろうか。しかし個人的にはなにしろゾンビ・コメディ映画『インド・オブ・ザ・デッド』(2013)に止めを刺す。楽園のようなゴアの島が一転ゾンビ地獄になるのが楽しかった。さてムンバイからゴアへ、とはいうが、インドに疎いオレには距離感がつかめない。調べたところ距離で言うと800Km、これは東京から広島ぐらいまでの距離らしい。ムンバイ-ゴア間を走る電車だと11時間から12時間、長距離バスだと15時間ほどの距離なのだとか(……ザックリ調べたので間違ってるかも)。こんな距離を幼い兄妹だけで踏破するのだからこれは大変だ。

というのはこの兄妹、ムンバイ-ゴア直通電車には乗ったものの、無賃乗車がバレそうになったために途中下車してしまうのだ。いったいどのあたりで下りてしまったのか自分にはちょっと分からなかったのだが、その不安は二人にとっても一緒だったのではないか。そして「もうムンバイに帰ろうよ……」と心細くなっちゃう兄に対し、その兄に「お婆ちゃんに会うんでしょ!」と妹が叱咤するのが実に微笑ましい。この作品、どちらかというと8歳の妹のほうが積極的なのだ。

そしてここからの二人の冒険の様子がこの映画の見どころになる。兄妹はヒッチハイクを繰り返しながらゴアを目指そうとするが、その中で映し出されるインドの自然と田舎の光景、その明るく乾いた景色と、なにより兄妹が折々に触れるインドの人々の温かく気さくな様子が心を和ませる。この物語は基本的に性善説でもって作られており、邪な泥棒や人さらいが登場することもなく、またとりたてて危険や危機に遭うこともなく、警察官の目を気にすることこそあれ、基本的に二人の旅の様子をゆったりとした視線で描いてゆく。

そしてそれは同時に兄妹たちの住んでいた都市部とインド地方部の経済と心情の隔たりをうっすらと浮き上がらせる。二人の兄妹は豊かな暮らしを送っていたが、両親は常に何かに追われ、遠い地に住む自らの親、親族のことを顧みる余裕もなく生活している。一方地方に住む住人たちは兄妹に優しく接するが、困窮の中に暮らす人々の姿も描かれたりもする。また、ゴアに一人ぼっちで暮らす母親とムンバイで暮らす息子夫婦といった描写にはインドにおいて核家族化が進んでいることを描いているともいえる。家族主義に見えるインドも刻々と変わってきているのだ。

映画としてみると、インディペンデント作品ということで予算や配役の関係もあるのだろうか、淡々と物語が進み過ぎてカタルシスに欠けるという部分はあるかもしれない。性善説過ぎるといったきらいもあるだろう。個人的には物語冒頭の手紙代筆の男をもう少し活躍させてもよかったように思える。また、あのラストはいったいなんなの?とちょっと首をかしげてしまった。そういった部分を抜きにすれば、子供たちの冒険とインドの自然の美しい掌編として観ることも可能だろう。あと、子供たちだけではなく、お婆ちゃんがまた可愛い。