インド映画を巡る冒険(仮)

以前メインのブログに書いたインド映画記事のアーカイヴです。当時書いたまま直さず転載しておりますので、誤記等ありましてもご容赦ください。

オッサンのオッサンによるオッサンのためのインドのオッサン映画『Welcome Back』

■Welcome Back (監督:アニース・バーズミー 2015年インド映画)


実はこの『Welcome Back』、あまり食指が動かなかった映画であったのも確かだ。なんとな〜く華がないし、それに大味そうだ。『Welcome』という作品の続編らしいがこれも観てない。しかも監督がアニース・バーズミー。彼の監督作品は『No Entry』(2005)、『Singh Is Kinng』(2008)あたりのコメディ作品を観たことがあるが、シチュエーションやアクションで笑わせるというよりも、細かい会話のニュアンスで可笑しさを醸し出す監督で、字幕と睨めっこしながら観なければならないのが少々しんどかったのである。
とはいえ、予告編を観たところとりあえず派手に作ってある。ドバイの高層ビルで花火バチバチとか、キンキラキンの大邸宅とか、なんだか大人数のダンス・シーンとか、「ゼニ掛けてまっせぇ!」という主張は伝わってくる。大味で派手、というのならむしろ高画質で観たほうが楽しめるか?と思いわざわざBlu-rayで購入して観ることにした。

《お話》ウダイ(ナーナー・パーテカル)とマジュヌー(アニル・カプール)はコワモテのギャングとして恐れられていたが、今はホテル経営者に転身し、ドバイで悠々自適の生活を送っていた。そんな二人の前にある日父親が現れ、実は二人には妹ランジャナー(シュルティ・ハーサン)がいること、そして彼女の花婿を探してほしいことを頼み込む。ウダイとマジュヌーは知り合いのグングルー(パレーシュ・ラワル)に前妻との息子がいるはずだとあたりを付ける。しかもその息子アッジュー(ジョン・エイブラハム)は既にランジャナーと恋仲だったのだ。ただし問題は彼がムンバイを仕切るマフィアだということだった。さらにマフィアのドン、ウォンテッド(ナスィールッディーン・シャー)の息子がランジャナーに岡惚れしていたことが発覚、単なる婿探しがマフィア同士の抗争にまで発展してしまう!

いやー最初の予想通りの映画だった。派手で大味。これに尽きる。予告編にあったままに、とりあえずドバイの高層ビルと、とりあえずキンキラキンの大邸宅である。とりあえず高級車でヘリコプターである。主演の皆さんはとりあえず高級そうに見えるヤートラ(ヤーサン・トラッド)なファッションに身を包む。「ゼゼっこしこたま持っててウハウハだっぺ!」というアゲアゲな様子は大変よく分かるが、品が無く田舎臭く趣味が悪い。なにもかもが「とりあえず」な大雑把さで占められ、スカスカで締りがない。しかし観ていて思ったのは、この映画の中心ターゲットはインドのオッサンだったのではないか、ということだ。インドに限らず世界の、世間一般のオッサンというのは、その基本が品が無く田舎臭く趣味が悪い生物である。オレも一介のオッサンとしてしみじみとよく分かる。主人公がマフィア、というのも「まともに仕事しなくていいし何かに縛られる必要もない」という、インチキな人生に限りなく憧れるオッサンらしい。

コメディとしての質も実にオッサンらしい。せいぜいが登場人物であるマフィアの皆さんが無意味に凄んでみせたり、下らないことでいさかいを起こしたりといったぐらいのもので、要するにマウンティング・ポジションにうるさいオッサンならではのものだ。そしてそれらのギャグがことごとくしょーもない。オッサンという生き物は往々にして寒い親父ギャグを飛ばし周囲から顰蹙を買うが、言ってる本人は意外と面白いと思っている、それである。ダンス・シーンに関しても、派手で大人数なだけで振り付けは相当につまらない代物だが、このセンスの無さも「オッサンのセンスだから」と思うと納得できるではないか。しかし、若いカップルの為にあくせくするのは、「こういうのはオッサンに任せとけ!」というオッサンならではの親方根性と、そして優しさなのではないかと思う。この映画に存在しないのは「オッサンのエロ」で、主役の二人は結婚詐欺の女二人に遭遇するぐらいだが、そこでギンギラギンにエロに走らないのは、実は奥手ではにかみ屋のオッサンだからこその可愛らしさなのである。

それよりもこの作品の本当の見所は他にある。それは身欠きニシンの如くじんわり油の沁みだしたオッサン俳優たちの総出演である。アニル・カプールとナーナー・パーテカルが主演として活躍する作品というだけで既に相当なオッサン臭を醸し出しているが、これにさらにパレーシュ・ラワルとナスィールッディーン・シャーが出演しているのである。これはもうとろ〜りとろりと三日三晩煮込んだ豚骨スープ並みにこってりぎらぎら、濃厚なケモノ臭の香り立つ作品だということができよう。こんなオッサンたちの黒く固くビンビンな姿をBlu-rayのHD画質で微に入り細にわたり観る喜び、これがこの作品の醍醐味である。はっきり言ってジョン・エイブラハムのアクションもシュルティ・ハーサンの大味な美貌もどうでもよかったぐらいである。オレはアニル・カプールが吠えナーナー・パーテカルがしかめ面をするだけで陶然となってしまった。そんなわけで浴びるようにインドのオッサンたちの姿を堪能したいアナタ、そんなアナタにこそこの『Welcome Back』がふさわしいであろうと思う。