インド映画を巡る冒険(仮)

以前メインのブログに書いたインド映画記事のアーカイヴです。当時書いたまま直さず転載しておりますので、誤記等ありましてもご容赦ください。

ギャングの兄、警察官の弟、そして変な悪党が大乱戦!/映画『Parvarish』【アミターブ・バッチャン特集 その9】

■Parvarish (監督:マンモーハン・デーサーイー 1977年インド映画)

■ギャングの兄!警察官の弟!

ギャングになった兄と警察官になった弟!善の悪との対立!という1977年のインド映画です。ん?なんか聞いたことのあるようなプロットじゃない?アミターブの『Deewaar』(レビュー)もそんな話だったよね?と思われる方もいるかもしれません。しかしこの作品、なーんだか妙におかしい描写が味わい深くて実に楽しめたんですよね。主演はアミターブ・バッチャン、そして『Amar Akbar Anthony』(レビュー)でも共演したヴィノード・カンナー(今調べて知ったんですが『ダバング 大胆不敵』でチュルブルのお父さん役もやっててたんですね!?)、さらに往年のインド名男優シャンミー・カプールが出演しております。

物語は警察官シャムシャー(シャンミー)が盗賊マンガル・シン(アムジャッド・カーン)を追い詰める場面から始まります。マンガル・シンは逃走しますが、シンの身重の妻が子を産んで死んでしまいます。シャムシャーは子供を哀れに思い自宅に引き取り、本当の息子と共に育てることにします。それから幾年月、二人の息子は大きく育ちます。マンガル・シンの息子アミット(アミターブ)は警察官となり、シャムシャーの本当の息子キシャン(ヴィノード)は密かにマフィアの構成員となっています。実はこのマフィアのボスというのが盗賊マンガル・シンであり、キシャンのほうを自分の本当の息子と間違え、キシャンもまたマンガル・シンを実の父と間違えて仲間になったのです。そんな中、盗賊を追い詰めていたアミットが、その盗賊というのが兄であるキシャンであることを遂に知ってしまうのです。

■何だか変だよ悪党のアジト!?

とまあこんなお話なんですが、兄と弟、善と悪、という以外に「悪玉の息子が善良な警察官になる」という要素と「警官の息子が悪玉を本当の親と間違える」という善悪の逆転した「取り替えっ子」の変形パターンがあるんですね。ただしここまではまだ設定であり、ある意味普通といえば普通かもしれません。でもこの物語の本当の面白さは他の部分にあるんですよ。

この『Parvarish』、まず最初に「なんじゃこりゃ?」と思ったのは盗賊マンガル・シンのアジトです。登場時は単なる山賊だったんですが、その後業務規模を拡大したのか、なんだか『007』にでも出てきそうな悪の秘密基地を構えてるんですよ。で、この秘密基地がスゴイ。巨大なホールの一方の壁が赤いスクリーンになっていて、その背後でシルエットになった女性たちがいつもゴーゴーダンスを踊ってるんです。しかも音楽無しで。

なんかこうアンモラルな雰囲気を出したかったのかもしれないですが、悪い顔して「ぐふふ…」と黒い笑みを浮かべるギャングの後ろで踊り狂う女性たち…ってなんかもうとってもシュールなんです。それだけではなく、ホールの中央には底なし沼まである!さらにマンガル・シン、なんと潜水艦を持っている!持っているんだけど、どういう目的で持ってるのか全く分からない!そしてその中でわざわざ悪の企みを巡らす!きっと「潜水艦まで持ってるすっごいワルモノ」を演出したかったのでしょうが、全く無意味なのがおかしい!

■ズベ公ヒロインの登場!そして荒唐無稽な展開!

そしてこの物語、一応二人のヒロインが出てくるのですが、これがインド映画ヒロインによくあるような明るく快活なサリー美人とかそういうのでは全くなく、縦から見ても横から見てもまるでヤンキーあがりみたいな姉妹!おまけに次々に時計やら財布やらをかすめ取るプロ級のスリ・コンビ!なんかもう昔の東映の『ズベ公番長』とか日活の『野良猫ロック』みたいな女チンピラなんですよ。腕とかよく見たら根性焼きの跡とかがあるかもしれません。

こんなヒロインってインド映画じゃ珍しくありません?で、この二人が主人公二人と絡み、恋愛までしてしまうんです。最初は主人公らにフラれるんですが、ここで展開される歌と踊りがとんでもなくおかしい。「もう死んでやる!」とばかりに首つりや飛び降り自殺を図る女性二人を、寸での所で主人公たちが助けてあげる、という様子がミュージカルぽく描かれるんです。いやあ、断然変だなあ!楽しいなあ!

こんなですから、「善と悪に分かれた兄弟二人!」という設定なのに全くシリアスな方向に行かないんです。むしろ荒唐無稽といってもいい。ユーモラスさは多分にありつつオチャラケたコメディに走ることは無く、マサラ・ムービーらしい脱線も殆どせず、物語の要点を押さえながら骨太な演出で見せるべきところをガッチリ見せてゆく。あれもこれもと手を出さず演出が非常に明快なんですね。

だから観ているこっちも雑念を沸かすことなくグイグイ引っ張られて観てしまう。娯楽映画の見本みたいな良質さが籠ってるんですね。物語は終盤に向け、善悪に対立する兄弟同士の様子から、悪に染まった兄を気に掛ける弟と、弟の為に悪の道から足を洗おうとする兄、そしてマフィアに捕えられたヒロイン二人の奪還へと盛り上がってゆくんですよ。いやこれ、アミターブ作品の中では他の有名作よりも気にいったな。