インド映画を巡る冒険(仮)

以前メインのブログに書いたインド映画記事のアーカイヴです。当時書いたまま直さず転載しておりますので、誤記等ありましてもご容赦ください。

甲冑大戦!歴史ファンタジー大作『バーフバリ 伝説誕生』はインドの『ロード・オブ・ザ・リング』だ!

バーフバリ 伝説誕生 (監督:S・S・ラージャマウリ 2015年インド映画)


母を救い、奪われた王権を取り戻すため、ひとりの男が立ち上がる!

迫りくる蛮族の群れに立ち向かい、王国の軍勢が鴇の声を上げる!

古代インドを舞台にし、ファンタジックな世界観の中、秘められた出生、恐るべき陰謀、火花散る戦い、巨大な車輪のように変転する運命のえにしを描く、2015年インド映画最高の歴史ファンタジー巨編、バーフバリ 伝説誕生』の始まり始まり!

■鬼才S・S・ラージャマウリ監督最新作!

『Yamadonga(2007)』、『あなたがいてこそ(2010)』、『マッキー(2012)』を監督したテルグ映画界の鬼才、S・S・ラージャマウリによる歴史ファンタジー大作『バーフバリ 伝説誕生』であります。S・S・ラージャマウリ監督がどれだけ鬼才なのかはこれらの映画のレビューを以前ブログに書きましたので是非参考にしてください。

◎全てが破格!抱腹絶倒の《ハエ》アクションムービー『マッキー』
◎家から出ちゃうと殺される!?〜映画『あなたがいてこそ』
◎冥界の神をやりこめろ!〜『マッキー』『あなたがいてこそ』のS・S・ラージャマウリ監督による大ヒットSFXファンタジー映画『Yamadonga』

S・S・ラージャマウリ監督の特徴はといいますと、話のテンポの良さ、そしてVFXの使い方が巧み、そしてなんといっても発想が奇想天外、といったことが挙げられるでしょうか。殺された青年がちっこいハエに生まれ変わって復讐を遂げちゃう!?という映画『マッキー』の、その有り得ない様な着想、そして腹を抱えて笑ってしまうコメディ・センスには脱帽させられました。いや、帽子は被ってないけど。
さらにこのラージャマウリ監督、インド映画に馴染みのない方に説明いたしますと、テルグ地方と呼ばれるインド南部を中心に活躍する監督なんですな。『ムトゥ』でお馴染みのラジニカーントもこの南インド界隈のスターなのですよ。よく一般に呼ばれるボリウッドというのはインド西端の大都市ムンバイを中心とした映画産業界で作られた映画なんですな。要するにボリウッド映画とは一味違う。どう違うのかといいますと、若干、というか、かな〜り、【濃いい】んですな!

■奪われた王権を取り戻せ!VFXに目を奪われる前半部


まず前半部を紹介します。

巨大な瀑布の前で、赤ん坊を抱えたひとりの老女が謎の兵士に追われていた。老女は命を落とし、残された赤ん坊は村の女に拾われる。シバドゥ(プラバース)と名付けられたその子は、いつしか怪力無双の青年として成長する。彼は「あの滝の上には何があるのだろう…」という強迫観念めいた好奇心に取り付かれおり、遂に滝上の大地に辿り着く。そこで彼はアヴァンティカ(タマンナー)という名の女戦士と出会い、恋をする。彼女の一族はマヒーシュマティ王国という名の国とゲリラ戦を続けており、シバドゥは彼女に協力すべく、その王国に乗り込む。そこで彼は王国に囚われている一人の女が実は自分の母であり、しかも自分がその国の王位継承者であったことを知るのだ。

この前半部でなにしろ最初に目を奪われるのがラージャマウリ監督お得意のビジュアル・エフェクツ大盤振る舞いです。オープニングの舞台となる巨大な滝はあまりにも高く幅広く、その水は異世界から落ちてきているかのようでもあります。続くマヒーシュマティ王国の輝きわたる宮殿とその広大な敷地を俯瞰する映像もVFXで作られ、威容を誇るこの宮殿の映像は何度見せられても驚かされます。アヴァンティカを強引に口説くシバドゥの恋の駆け引きシーンもなかなかにロマンチックでファンタスティック。

ただねえ、この前半部、期待が大きすぎたせいもあったのか、なんだかイマイチ乗れないんですよ。とても丹精込めて作られているんですが、どうも全体的にお行儀が良過ぎるし、綺麗に撮り過ぎているんですよ。ハッチャケ方が足りない、というか、馬鹿な事してくれない、という物足りなさがあるんですね。まあ確かにシバドゥの怪力ぶりは漫画の領域だし、その口説き方も実に男目線でアホアホだし、戦闘シーンもVFXいっぱい使って盛り上げているんですが、「描写が過剰過ぎてついつい笑ってしまう」という楽しさに欠けるんですね。なんかこれあんまり向いてそうにない文芸路線をやろうとしてねえか?と勘繰っちゃうんですね。「ラージャマウリ監督の本領はこうじゃないだろ!?」とついつい思えてしまうんですよ。

それと併せ、主人公シバドゥのキャラクターがシンプル過ぎて共感し難い、という部分がありますね。彼の行動には動機が希薄なんですよ。「滝昇ったら別の世界があった」「いい女いたから口説いた」「女にそそのかされて王国にいったら母親がいた」と、行き当たりばったりで、強烈な行動原理をひとつも感じさせないんですね。止むに止まれぬ"理由"とか、心に囁きかける"得体の知れぬ何か"とか、そういうモヤモヤした感情や突き上げる衝動が存在しないし描かれないために、観ているほうは主人公の行動をただ眺めているだけで置いてけぼりにされちゃうんですよね。まあいってみれば主人公はほぼ"神格"に近い存在ですから、そう描いてしまったためのつまらなさ、面白味の無さなのかもしれませんね。

■蛮族から王国を守れ!凄まじい戦乱の嵐が吹き荒れる後半部


そして後半部です。

物語後半は時代を遡り、マヒーシュマティ王国の王位継承権を巡る骨肉の争いと、王国に迫る蛮族との血で血を洗う大戦争の様が描かれてゆく。マヒーシュマティ王国の王が崩御し、その王位は王の息子アマレンドラ・バーフバリ(プラバース)か従兄弟のバッララデーヴァ(ラーナー・ダッグバーティ)のいずれかに授かることになるが、二人はまだ幼かったためにその成長を見届けることとなった。そんなある日、凶暴な蛮族カーラケーヤ一族がマヒーシュマティ王国に戦いを挑んでくる。圧倒的な数で挑んでくるカーラケーヤ一族に王国は存亡の危機に立たされるが、この時、アマレンドラ、バッララデーヴァの二人に、カーラケーヤ一族族長の首を取った者を王に任命する、と女王からお触れが出されるのだ。

さあさあこの後半部でやっと『バーフバリ 伝説誕生』の真骨頂を見せつけられます!前半部から時代を遡り「かつてマヒーシュマティ王国で何が起こったのか?」が描かれてゆくのです。幼い二人の子供の王位継承権を巡る王族同士の血腥い争いから始まり、二人の王子の成長とその性格の対比が描かれた後、物語は凶悪な蛮族カーラケーヤとの戦乱の空気が次第に高まってゆきます。そして遂に戦乱の火蓋が切って落とされるのです!

数々の近代兵器とローマ軍のように統率のとれた兵士を擁するマヒーシュマティ王国軍、それに対し装備こそ劣るものの圧倒的な数と残虐な性格、さらに見た目の気色悪さを兼ね備えたカーラケーヤ一族との戦いは、数え切れないほどの大軍勢と大軍勢がぶつかり合う大戦争として描かれるんです。無数の兵士がお互いの肉を切り骨を断ち、次々とぼろ雑巾のようになって死んでゆくその光景は『ロード・オブ・ザ・リング』のクライマックスを思わせる凄まじいものなんです!

なにより小汚くて見た目の気色悪いカーラケーヤ一族が、『LOTR』に出て来るサウロン勢のオーク兵にしか見えない!しかし『LOTR』が中世ヨーロッパを思わせるビジュアルだったのに対し、こちらは古代インドにインスパイアされたビジュアルですから、もっとこってりとしたエキゾチズムが横溢しているんですね。このシーンにおける『バーフバリ 伝説誕生』はインドの『ロード・オブ・ザ・リング』と言っても過言ではないでしょう!

そしてここで活躍するアマレンドラ、バッララデーヴァの王子二人の戦いは、もはや人間の能力を超えた鬼神の如き無敵の無双っぷりを見せつけるんです。そうそうこれだよ!この無敵無双こそがインド映画だよ!鬼神なのは当たり前、彼らには破壊の神シヴァがついているんだからね!重力も力学も関係ない!彼らは神の理によって戦っているんだもの!こうして物語はあたかもインド神話の一ページを見せられているかのような光景へとなだれ込み、大いに盛り上がってゆくのですよ!

そして!『LOTR』が3部作の映画だったように、この『バーフバリ 伝説誕生』も前後編2部作の前編だったのですね!シバドゥは見事王になることができるのか!?戦乱のマヒーシュマティ王国がどのようにして暗黒面に落ちたのか!?次回完結編である来年2016年公開予定の『バーフバリ 王の凱旋』を待つのですよ!