インド映画を巡る冒険(仮)

以前メインのブログに書いたインド映画記事のアーカイヴです。当時書いたまま直さず転載しておりますので、誤記等ありましてもご容赦ください。

散々飲んで目が覚めたらN.Y.の知らない女性の部屋!?〜映画『I Love NY』

■I Love NY (監督:ラディカ・ラオ 2015年インド映画)


晦日の夜、悪友たちと散々飲んだシカゴ在住の男が、目が覚めてみるとなんとニューヨークの、しかも全然知らない女性の部屋にいた!?というコメディ作品です。主演は以前観てメチャクチャ面白かった『Gadar: Ek Prem Katha』(レビュー)主演のサニー・デーオール、そして今インド映画界で最も注目の女優カンガナー・ラーナーウト。また、ヴァルン・ダワンがちょっとだけ顔を出します。これは気になる作品ですね。タイトル『I Love NY』の「NY」は、「New York」と「New Year」をかけたものになっています。

《物語》シカゴ在住の独身サラリーマン、ランディール(サニー・デーオール)は大晦日を迎え、悪友たちと共に次から次へと酒を酌み交わしていた。そして酔い潰れた彼の顔に、たまたまよその男の航空券が張り付いてしまい、周りの人間は気を効かして意識不明の彼を飛行機に乗せてしまう。そして着いた所はニューヨーク、しかしそんなことなどつゆ知らず、彼は泥酔状態のままタクシーに乗り込む。シカゴの自分の番地を告げると、なんとニューヨークの同じ番地のアパートに到着し、あまつさえ部屋の錠前は、持っている鍵とぴったり一致、何一つ不思議に思うこともなくランディールはベッドにもぐりこんで寝入ってしまう。そこにやってきたのは本来の部屋の住人ティクー(カンガナー・ラーナーウト)。自分の部屋のベッドで眠り呆けるランディールの姿に大騒ぎ、目を覚ました彼とがなりあっているところに訪問者が。それはティクーと大晦日を祝おうとやってきた婚約者のイシャーン(ナヴィン・チョードリー)だった。

この物語、偶然に偶然が重なることによって成り立つドラマなんですが、シカゴとニューヨークに同じ番地があるという設定はともかく、このどちらにも同じアパートがあり、あまつさえ同じ部屋番号の鍵がどちらにも使えちゃう、というのはどうにも不自然に感じるかもしれません。しかもこのアパート、外観から部屋の間取りまで全く一緒ということですから、きっと同じ建築会社がそれぞれの街で同じアパートを建てちゃった、ということなんでしょう。ちょっと出来過ぎのようですが、実はこれにはちょっと訳があります。この作品は『The Irony of Fate(運命の皮肉)』(1976)というロシアのTVドラマを下敷きにしているんですが、このTVドラマに登場するアパートはブレジネフ時代の公共建築ということになっていて、共産国らしい同じ仕様のアパートだからこそ、外観も内装も鍵すらも一緒、という設定が成り立っちゃっているんですね。この作品は無理を承知で設定をそのまま生かしてしまったということみたいなんです。

設定だけではなく物語にも強引さを感じます。女性の部屋に見知らぬオッサンが寝てたら確かに大騒ぎなんですが、あとは追い出すか警察を呼ぶかでおしまいでしょう。しかしこの物語では、この後ランディールとティクーの間に恋が芽生えちゃう、という話の流れになっちゃうんです。これがきっかけで二人が知り合い徐々に恋心が…というのではなく、この日のたった一夜でですよ?しかもティクーには婚約者がいるにもかからず、その婚約者と別れてですよ?まあ、この婚約者というのが少々乱暴な人間で、ランディールのことを口汚く罵るばかりか手荒に扱うものだから、ティクーが冷めてしまった、ということもあるんですが。どちらにしろ女性だったらこの物語を観て「絶対ありえない!」と思われるんじゃないでしょうか。ただ、男の側からすると、ええとその、ちょっとファンタジーを感じちゃったりなんかしちゃったりして…。

そう、これだけ不自然な設定なのにも関わらず、奇妙に惹きつけられる物語であるのも確かなんですね。それは主演であるサニー・デーオールのいい具合に草臥れたオッサン具合と、そしてなんといってもカンガナー・ラーナーウトのたまらないキュートさに負うものが大きいでしょう。サニー・デーオールは二枚目でもなんでもない結構なオッサンではありますが、結構な包容力を感じさせるばかりか、いざというときに逞しさまで見せちゃうんですよ。あー、これだったら若い女性でもちょっとその気になっちゃうかも、と納得できるんですね。そしてカンガナー・ラーナーウト、いつもはエキセントリックな役柄が多い彼女ですが、この作品ではごく普通の独身女性を演じており、アメリカ都市部在住らしいカジュアルルックや大晦日のドレスアップ姿などが非常に可愛らしいんです。こんな彼女が泣いたり笑ったり怒ったりと表情豊かに役柄を演じるものですから、もうそれを眺めているだけで物語に魅了されてしまうんですね。そんなわけで最後まで楽しんでみることができた作品でした。

しかしそれにしても、ついこの間『Tanu Weds Manu Returns』(レヴュー)に出演したばかりのカンガナー・ラーナーウト、随分過密スケジュールで映画出演しているな、と思ったら、どうもこの『I Love NY』は2013年に完成していたものの、つい最近までお蔵入りしていたようなんですね。それというのも主演のカンガナー・ラーナーウト自身がこの作品の公開に反対していたからなのだとか。詳しい事情は分からないのですが、この作品での自分の演技とか作品の完成度に納得できなかったからということなのでしょうか。どちらにしろ作品が日の目を見たことはファンとしては嬉しいのですが。