インド映画を巡る冒険(仮)

以前メインのブログに書いたインド映画記事のアーカイヴです。当時書いたまま直さず転載しておりますので、誤記等ありましてもご容赦ください。

金持ちのボンボン、農村で働く。〜映画『Ramaiya Vastavaiya』

■Ramaiya Vastavaiya (監督:プラブデーヴァ 2013年インド映画)


この間観たプラブデーヴァ監督の『Action Jackson』が面白かったので2013年のプラブデーヴァ監督作『Ramaiya Vastavaiya』を観てみることにしました。お話は金持ちのボンボンが農村の娘に一目惚れし、山のような障害や妨害に出遭って辛酸を舐めつつも、決して諦めずに愛を貫き通そうとするもの。主人公はこれがデビュー作となるギリーシュ・クマール、ヒロインにシュルティ・ハーサン。また、ソーヌー・スードが出演していい味出しております。

《物語》パンジャーブに住むラグヴィール(ソーヌー・スード)は幼い頃両親の離婚、母の死を経ながら、苦労して農園を大きくし、妹ソーナー(シュルティ・ハーサン)を育て上げてきた。ある日ソーナーは親友の結婚式を手伝うため彼女の家を訪れる。そこにやってきたのがオーストラリア在住のええとこのボンボン、ラーム(ギリーシュ・クマール)。ラームはソーナーに一目惚れし、しつこくアタックを繰り返すが、ソーナーは彼の軽薄な性格に辟易し、最初は全く取り合わなかった。しかしある出来事を境に二人は急接近し、相思相愛の仲となる。だがラームの母とその親族は二人の仲を快く思わず、ちょうど家を訪れたラグヴィール共々罵詈雑言を浴びせまくり追い帰してしまう。驚いたラームはラグヴィールの農園に行き許しを請うが、ラグヴィールは許さない。諦めないラームにラグヴィールは条件を出すが、それは農園に住み込み、畑で収穫を上げろ、というものだった。

この映画を観始めて最初、主人公ラームの軽薄過ぎるチャラ男ぶりに「なんじゃいなこのアホは」と拒否反応を起こしちゃったんですよ。いやもうこのラーム、チャラチャラヘラヘラとした大馬鹿野郎で、映画でもソーナーからエテ公呼ばわりされてましたが、鬱陶しくてしゃあない男なんですよねえ。演じるギリーシュ・クマールも猿顔っちゅうか狐顔で、しかもクルクルのオバサンパーマがかかっていて、見ていて一層鬱陶しさがつのるんですよ。ここで思い出したのがプラブデーヴァ監督の2013年の作品『R…Rajkumar』なんですね。この『R…Rajkumar』も主人公がチャラ男でしつこくて、見ていてイライライライラしまくってたんだよなあ。一般には評価の高い作品でしたが、オレちょっとノレなかったんですよ。そういえばこの『Ramaiya Vastavaiya』も2013年の作ですから、この頃プラブデーヴァ監督の中には「しつこいチャラ男」ブームでも来ていたんでしょうか。なにがあったんでしょうかプラブデーヴァ。

しかし、チャラ男のラームにイライラしつつも、「いやここはぐっと我慢しとけば実は後半に新展開があるんではないか」と思うことにしてラームのアホ振りに耐え忍んでいたんですよ。そしたら。来ましたよ。やっぱり主人公の軽薄なアホアホ振りは後半への伏線だったんですね。ソーヌー兄ちゃんに農業の過酷さを体験させられ、最初はグダグダだったチャラ男ラームが次第にしっかりした逞しい男へと変わってゆくんですね。これは全てソーナーへの一途な想いゆえであり、同時にこれまでの浮かれたボンボンである自分を乗り越え《漢》になる為の試練だったということなんですね。こうして前半の軽いコメディ・タッチが後半熱い根性ドラマに変わっていくところが面白い。そんなラームから一身に愛を受けるソーナー役のシュルティ・ハーサンも、インド映画ではあまり見かけない女優さんですが、美人だし健気だし素敵でした。さらにこの後半ではラームの親族からの卑怯な妨害工作なども入り、意外にサスペンスやアクションが盛り込まれるんですよ。特にクライマックスはアクション映画監督としてのプラブデーヴァの腕が光る展開を見せ、最後まで飽きさせないんですね。

そしてやっぱりこの映画、兄ちゃん役のソーヌー・スードが光ってましたね!アホアホの主役とふわふわした美人ちゃんのヒロインの間で物語をピリッ!と締めていたのがこのソーヌー・スードだったんじゃないかと思うんですね。彼の独特の暗さとか重さが、軽くなりがちなラブロマンスに陰影と緊張感を与えているんですよ。確かにソーヌ―兄ちゃんはこれまで散々苦労してきましたからねー、若い頃に悪いことやってチュルブル・パンデーに叩きのめされたりとか、流れ者のシャヒード・カプールにヤクザ仕事世話したら惚れてる女奪われたりとか、ムショで知り合ったプラカーシュ・ラージと遺産狙いの詐欺やってアクシャイ・クマールに返り討ちに遭ったりとか、シャー・ルク・カーンと宝石泥棒に手を染めたりとか、まあ叩けば埃の出る人生を歩んできたソーヌ―兄ちゃんですが、やっと農村に落ち着いて可愛い妹を見守っているって、人に歴史ありって感じさせていいですよね(なんかいろんな映画が混じっている)。