インド映画を巡る冒険(仮)

以前メインのブログに書いたインド映画記事のアーカイヴです。当時書いたまま直さず転載しておりますので、誤記等ありましてもご容赦ください。

社会の不正は俺が正す!〜映画『Gabbar Is Back』

■Gabbar Is Back (監督:クリーシュ 2015年インド映画)


「社会の不正は俺が正す!」とばかりに制裁を繰り返す謎の男を描いた2015年公開の社会派アクション・スリラー『Gabbar Is Back』であります。主演にこのテの映画ならお手のもののアクシャイ・クマール、ヒロインに『「Ramaiya Vastavaiya」』のシュルティ・ハーサン。監督はテルグ映画で活躍していたクリーシュ、さらに製作にサンジャイ・リーラー・バンサーリーが参加しています。タイトルが『Gabbar Is Back』となっているので何かの続編なのかなあ?と思ったらそういうことでもなくて、タミル映画のリメイクなのだとか。

《物語》マハーラーシュトラ州で10人の税務官が誘拐され、1人が縛り首に遭った。その後「ガッバル」と名乗る謎の男から犯行声明があり、彼ら税務官は汚職を繰り返す社会悪であることをメディアに広めた。一方、大学教授のアディティヤ(アクシャイ・クマール)はスクーターと接触事故を起こしたシュルティ(シュルティ・ハーサン)という女性を病院に連れてゆく。しかし病院で不必要な検査と法外な治療費の請求を目の当たりにしたアディティヤは一計を案じて病院の不正を暴き、それをメディアに公表してしまう。事実を知り怒り狂った市民は病院で暴動を起こすが、その監視ビデオを見ていた大企業CEOパテルは驚愕する。ビデオに映っていたアディティヤは、5年前パテルの違法建築により倒壊したビルで妻を失い、抗議に訪れたところを殺した筈の男だったのだ。

「法が裁かぬ社会の悪を、天に代わって成敗する!」といった物語はアメコミのスーパーヒーローから「必殺シリーズ」の中村主水まで数々ありますが、そんな中この映画『Gabbar Is Back』はより政治的なメッセージを盛り込んだ物語として完成しています。主人公ガッバルが裁く悪はマフィアや連続殺人犯といった犯罪者ではなく、社会のシステムの中で不正を行い甘い汁を吸う役人や病院院長、企業トップなど強力な権力を有するものたちなんです。ですから当然そのメッセージは「社会をよりよいものに変えていこう!」となるんですね。ガッバルの戦いが実は彼一人のものではなく、社会悪を憎む学生たちの助けも借りながら行われている、といった部分には学生運動の匂いも感じられますね。

今回主演を演じるのはアクシャイ・クマール、『Holiday』『Baby』に続きまたもや正義の男の登場となるわけです。なんかもうこういった役がすっかり板についてしまっていますね。とはいえ主人公の性質はこれまでとちょっと違っていて、『Holiday』と『Baby』が特殊工作員という、いわばインド政府を背負って立つ存在だったのが、今回は市井の市民としての登場となります。そして実は彼の行動の背後には「正義の鉄槌」であるのと同時に個人的な怨念が存在し、そういった情念の描かれ方があるがゆえに、心情的に接近して観ていられるんですね。ですから実の所「社会悪を正す正義の男」というよくあるストーリーではありますが、割と退屈せずに観られることが出来ました。

ただ学生まで巻き込み正義を説くさまは、いつものインド映画お説教展開といえないこともなく、どうも青臭いというかエンターティンメント作品として白けてしまう部分があるのも確かです。いくら正義とはいえ汚職した政府役員をつるし首にするというのは、それが学生も含めてやってしまう、という部分にどうも先鋭化した過激派の臭いを感じてしまいます。ぶっ殺すんならぶっ殺すでイカレた正義の味方一人でいいと思うんですね。その点私怨で大暴れするガッバルの姿には「やれやれぶっ殺したれや!」と声援上げちゃうんですけどね。そういった部分で若干もにょってしまう所のある作品ではありました。