インド映画を巡る冒険(仮)

以前メインのブログに書いたインド映画記事のアーカイヴです。当時書いたまま直さず転載しておりますので、誤記等ありましてもご容赦ください。

年貢が倍だと!?だったらクリケットで勝負だッ!?〜映画『ラガーン』

■ラガーン (監督:アシュトーシュ・ゴーワリケール 2001年インド映画)


「年貢が倍ってどういうことだっぺ!?だったらクリケットで勝負するっぺ!!」

時は1893年、場所はイギリス統治下にあるインドの片田舎!因業なイギリス人悪代官がいたいけなインドの村人たちに言い渡したのは過酷な年貢の量だった!「今期の年貢はいつもの2倍っす。そこんとこヨロシク。あとパンが無ければケーキを食べればいいと思うの」。しかし日照り続きの村ではいつもの量すら準備できない!「お代官さま!そっだら年貢は払えねえっぺ!おらたちに飢え死にしろってことだっぺか!?」すると慌てふためく村人たちを鼻で笑いつつイギリス人悪代官はこう告げた!「あらあら顔真っ赤じゃん!うふふん、じゃあねえ、ボクらとクリケット試合して、勝てたら免除しちゃおうかな?なんなら3年間タダにしちゃってもいいや!ただーし!負けたら年貢は3倍だからねェ~?」ここまできたら売り言葉に買い言葉、村人たちも試合をせざるをえなくなる!だが!一つ致命的な問題が!村人たちはだーれもクリケットなんかやったことがなかったのです!

2001年インドで公開され大ヒットを飛ばし、さらに国内外で数々の賞を受けたばかりか米アカデミー賞外国語映画賞もノミネートされた映画『ラガーン(原題:lagaan once upon a time in india)』であります。主演・製作は『きっと、うまくいく』『チェイス!』のアーミル・カーン。タイトルの「ラガーン」の意味はズバリ「年貢」!ちなみに日本未公開作ですが日本語字幕付きDVDが出ており、現在は廃盤のようですがレンタルで観ることができました。

いやもう最高の面白さでした。イギリス統治時代のインド人とイギリス人との確執、というとややこしくてきな臭い話のように思われるかもしれませんが、この『ラガーン』はその確執を「クリケットで白黒つけちゃおうぜ!」と物凄くシンプルな形に落とし込んでいるんですね。つまり政治的歴史的なテーマを持った「虐げられた者たちの叛乱」を描きつつも、それをスポーツの形に昇華させることによって、「勝つか負けるか!?」という直球ど真ん中のエンターティンメント作品として楽しむことができるんです。そもそもこういった物語は結末が予想できてしまうものですが、それでも様々な困難や思わぬ出来事を周到に用意し、最後まで観客をハラハラドキドキさせながら堂々と長丁場を描ききることに成功しているんですね。なにしろこの作品、224分もあるんですが、その長さを全く感じさせない面白さでした。

クリケット試合がひとつのテーマになっている物語ですが、このクリケット、もともと英国伝統のスポーツで、それが植民地時代にインドに持ち込まれ、現在のインドでも国技となるほど一般的になっているスポーツなんですね。ですからインド映画でもよくとりあげられ、自分は映画『Kai Po Che』でその様子を見たことがあります。実の所ルールはさっぱり分からないんですが、この『ラガ−ン』でもルールが分からなくてチンプンカンプンなんていうことが殆どないんですね。確かに知っていたらもっと面白いんだろうなあ、と思える局面もあることはあるのですが、試合中の選手や観客たちの喜んだり悔しがったりする様子で何が起こっているのか分かるんですよ。自分はもともとスポーツが苦手なたちで、実は野球のルールすらよく分かってなかったりするんですが、それでも『巨人の星』や『侍ジャイアンツ』みたいな野球漫画は面白く読んでたし、この辺全く問題ないんじゃないでしょうかね。

作品の見所は多々ありますが、まずクリケット試合を言い出したイギリス人大尉の憎たらしさでしょう!インドでは菜食主義などは厳格なものですが、その菜食主義のインド人藩主に「年貢?肉食ってみせたら割り引いてやるよ!ガハハ!」なーんてぬかすんですね。悪役として申し分なしです。そして主人公のまわりに選手として少しづつ村の仲間たちが集まってくる様子が『七人の侍』ぽくてワクワクさせられるんです。まあしかしその風体はどうにもこうにも癖があり、『七人の侍』というよりは『アパッチ野球軍』って感じですが!その仲間の中に一人裏切り者が現れイギリス側に内通する、というのがまたサスペンスを生みます。そして村人たちを不憫に思った駐屯地のイギリス人女性がクリケットのルールを教えるためにこっそり村を訪れます。そしてこのイギリス人女性と主人公、そして主人公を慕う村娘の間でちょっとした三角関係のラブロマンス展開が盛り込まれます。

そしてなんといってもメインであるクリケット試合です。この試合は作品内時間で3日間、映画でも1時間余りに渡って描かれていて、全くもう『アストロ球団』かよ!?ってな感じです。そしてこれがもうとことん盛り上がりまくるんですよ!なにしろ村人たちには明日の生活どころか命すら掛かっている試合なわけですから盛り上がらないわけがないんです。グランドの周りを埋め尽くす村人たちが試合の一進一退で山をも動かさんばかりにどよめくんですね。イギリス選手たちはチクリチクリと汚い手を使い、この憎たらしさがまた試合を味わい深くするんです。一方インド村人チームは初試合にも関わらず健闘を見せるものの、意気ばかりはやって確実さが足りない!おまけに劣勢に立った時のメンタルの弱さが致命的!こうしてクライマックス、インド村人チームは接戦に接戦を重ねながら一人敗退し二人敗退し、もう後の続かない万事休すの状態に!?果たして村人チームにヒンドゥー神は微笑むのか!?ひたすら熱い展開を迎える『ラガーン』、インド映画好きもそうでない方にも是非お勧めします!