インド映画を巡る冒険(仮)

以前メインのブログに書いたインド映画記事のアーカイヴです。当時書いたまま直さず転載しておりますので、誤記等ありましてもご容赦ください。

傷だらけの天使たち~映画『Kill Dil』

Kill Dil (監督:シャード・アリー 2014年インド映画)


愛に目覚めた殺し屋が、殺し屋家業から足を洗おうとするが…というアクション&ラブコメ作品です。主演の殺し屋を演じるのは『Goliyon Ki Rasleela Ram-leela』『Lootera』のランヴィール・シン、その相棒役を『Mere Brother Ki Dulhan』のアリー・ザファル。ヒロインを『Hasee Toh Phasee』の演技が非常に印象的だったパリニーティ・チョープラー、さらにマフィアのボス役をベテラン俳優ゴーヴィンダーが演じます。

孤児として生まれたトゥトゥ(アリー・ザファル)とデーヴ(ランヴィール・シン)は幼い頃にギャングのドン、バイヤジー(ゴーヴィンダー)に拾われ、そのまま暗黒街で育つことになりました。いつしか腕利きの殺し屋となった二人は、今日もバイヤジーの指令の元、冷徹に仕事をこなしていきます。しかしある日、デーヴがクラブで出会った少女ディシャー(パリニーティ・チョープラー)と恋に落ちたことから、彼らの運命は大きく変わってゆきます。殺し屋であることを隠してディシャーと交際するデーヴでしたが、愛に目覚めた彼は人を殺すことができなくなってしまうのです。そしてそんなデーブをバイヤジーは面白く思っていませんでした。

この『Kill Dil』、ピンクやグリーンといった非常にビビッドな色使いのポスターやビジュアル・イメージから、スタイリッシュな映像を追求した作品かと一瞬思わせますが、実際映画を観てみると、スタイリッシュというよりもポップでライトな作風である、と言ったほうがいいかもしれません。ギャングの殺し屋が主人公で、確かに殺しのシーンもありますが、緊張感みなぎるハードボイルドな作品という訳ではないし、銃撃戦こそありますがそれが中心のアクション映画というものでもないんですよ。むしろコミックのノリに近い軽さに満ち満ちてるんですね。そしてその軽いノリの中心にいるのが主人公であるトゥトゥとデーヴのチンピラ二人組、というわけなんです。

友情とも兄弟愛ともつかぬ熱い感情で固く結びつきあったこの二人の関係は、オレには最初知る人ぞ知る日本のTVドラマ、『傷だらけの天使』を思い起こさせました。萩原健一水谷豊が主演となるこのドラマは、二人のホモソーシャルともいえるチンピラ同士の主従関係が奇妙な面白さを持つ作品でしたが、この『Kill Dil』でも、頼りがいのある兄貴分トゥトゥに少々子供っぽいデーヴが寄り添う形で関係が成り立っているんですね。ここでトゥトゥ演じるアリー・ザファルはどこかニヒルなキャラクターで、ルックスもちょっとジョニー・デップ入ってます。一方、デーヴ演じるランヴィール・シンが、ある意味今作の主役となっているといってもいいでしょう。

実は映画を観始めて最初、「ランヴィール・シンをアホっぽくしたような俳優が出てるけどこの人誰?」と思っっちゃったんですが、実はそのアホっぽいヤツがランヴィール・シンだった!?ランヴィール・シン、オレは『Goliyon Ki Raasleela Ram-Leela』で初めて見て、「なんだかインドにはスゴイ(いろんな意味で)俳優がいるなあ…」と感心してたんですが、その後180度キャラの違う『Lootera』で益々感心し、そして『Gundy』の非常に分かり易いマッチョキャラでまたもや感心してたんですね。そしてまたもや趣向の違う今回のキャラを観て、意外とランヴィール・シンって器用な俳優なんじゃないかと思いました。

映画は前半がオチャラケ殺し屋二人組によるアクションが若干挿入された後、中盤から後半にかけてはデーヴとディシャーの恋愛模様、そして殺し屋家業という烙印に苦悩するデーブの様子が描かれてゆきます。デーヴを殺し屋に復帰させたいバイヤジーの暗躍(バイヤジー演じるゴーヴィンダはなかなかの迫力でした)こそあるものの、物語の流れは結構な甘ったるさを覚えるものとなっています。全体的に小粒で深みを望めるような作品ではありません。この辺で好みの分かれるところとなると思いますが、しかし個人的には殺し屋二人のキャラの軽快さ、ヒロインの魅力などから、気軽に観られるライトな作品として楽しむことが出来ました。