インド映画を巡る冒険(仮)

以前メインのブログに書いたインド映画記事のアーカイヴです。当時書いたまま直さず転載しておりますので、誤記等ありましてもご容赦ください。

更新停止のお知らせ

このブログ『インド映画を巡る冒険(仮)』は元ブログ『メモリの藻屑、記憶領域のゴミ』からインド映画記事のみを抜き出しアーカイヴしていましたが、前回の記事でアーカイヴするインド映画記事が無くなってしまったため、今回で更新停止とさせていただきます。永らく御愛顧いただいて誠にありがとうございました。引き続き元ブログ『メモリの藻屑、記憶領域のゴミ』をお読みいただければ光栄です。

ブログ主:フモ

困難に満ちた火星探査船計画を成功させろ/映画『ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打ち上げ計画』

ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打ち上げ計画 (監督:ジャガン・シャクティ 2019年インド映画)

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世界で初めて成功した火星探査船計画

2013年、インドは世界で初めて火星周回軌道に探査船を到着させることに成功します。それまでアメリカ、ロシア、中国といった大国が軒並み失敗していた計画を、月探査船さえ送り込んでいなかったインドが成功させてしまったんですね。その実話を元に、計画の背後に存在したであろう様々なドラマを脚色して描いたのが映画『ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画』です。

《物語》2010年、宇宙計画の命運をかけたロケット打ち上げが失敗に終わり、チームリーダーのラケーシュと同僚のタラは実現に程遠い火星探査プロジェクトに異動させられます。しかもそこに集められたスタッフは経験の浅い若手女性職員や二軍落ち扱いの男性職員ばかり。けれどもラケーシュとタラは次々とアイディアを出し、火星探査プロジェクトを実現可能のものとしてゆきます。とはいえ、上層部の反応は冷たく、無理難題ばかりが積み重なってゆきます。果たして火星探査プロジェクトは軌道に乗ることが出来るのか!?

『パッドマン 5億人の女性を救った男』スタッフが再集結

主演は『パッドマン 5億人の女性を救った男』『KESARI/ケサリ 21人の勇者たち』のアクシャイ・クマールと『女神は二度微笑む』『フェラーリの運ぶ夢』のヴィディヤー・バーラン。さらに『ダバング 大胆不敵』のソーナークシー・シンハー、『きっと、うまくいく』のシャルマン・ジョシ、Netflixドラマ『ピンク』のタープスィー・パンヌーといった俳優が脇を固めます。監督は『マダム・イン・ニューヨーク』『パッドマン』で助監督を務め、今作が初監督となるジャガン・シャクティ

いやー、素敵な映画でした。『パッドマン』主演・製作スタッフが再結集ということらしいんですが、『パッドマン』同様、困難極まりないミッションを、決して諦めることなく、石に齧り付いてでも成功させようという不撓不屈の精神がここでも描かれているんですね。今作は宇宙計画という、国家規模の計画が扱われますからその困難さはまた別格です。それは予算や人員、技術的問題と達成すべき期日、さらに国家の威信までが重なるのですから、その重圧は並大抵のものではありません。

女性がメインとなる今日的なアプローチの作品

しかしこの『ミッション・マンガル』は、そんな困難な計画の様子を決してシリアス一辺倒で描くものではありません。お堅いリアリズムにこだわらず、ややこしい科学技術を並べることもなく、むしろ明るく軽やかなステップで、ユーモラスかつテンポよく進んでゆくんです。それはなんと言っても、この作品がタラを始めとする女性スタッフが中心となって描かれていることが理由の一つでしょう。彼女らが挑む宇宙計画だけではなく、それぞれのプライベートな人間関係や各々が抱える想いを描くことにより、実にたおやかで情感豊かな物語となっているんです。こういった「女性がメインとなる物語」であることが非常に今日的なテイストを生んでいるんですね。

「女性がメインとなって描かれる宇宙計画」といえば60年代NASAの黒人女性スタッフをクローズアップして製作された映画『ドリーム』を思い浮かべる事ができるでしょう。『ミッション・マンガル』はこの『ドリーム』を多大に意識して作られたものであるように思えます。実のところ『ミッション・マンガル』の、「経験の浅い少数の若手女性職員が中心となって遂行されたミッション」というプロットはあくまで脚色です。実際当時の計画には1万7千人が従事し、そのうち女性は20パーセントだったというのが正確な数字です。しかしその中から女性をクローズアップさせることによって、単なるドキュメンタリー作品ではなく、今日的な切り口を持った娯楽作品として豊かな物語性を加味することに成功しています。

無理難題とアクシデントが重なる困難な計画

そういった点のみならず、作品は「困難な計画」のその「困難さ」を徹底的に描きます。上層部の冷淡さと圧力と対立、バラバラな気持ちのチームスタッフ、ひたすら渋られる予算、どの国も成し得ていない計画の技術問題、火星接近に間に合わせなければいけない期日、これら積み重なる無理難題と度重なるアクシデントが、観ていて最後までハラハラさせられどうしなんです。そしてそれを数々の閃きとアイディアで乗り越えてゆく様子がまた胸のすく作品となっているんです。

これらのドラマも映画的脚色なのだろうと思いますが、現実的には宇宙計画とは地味で地道で厳密なものの集積であるのでしょう。しかしその根底にある「宇宙への想い」をドラマとして結実させたのがこの作品だと言えるのではないでしょうか。実際にも、この火星探査船計画は日本円で約70億円という破格の低予算で成し遂げられました。映画でも言及されていますが、それはハリウッドの大作映画よりも低い予算です。宇宙を駆ける映画の夢よりも低い予算で現実に宇宙へと羽ばたく夢を実現させたこの計画、その偉大さに触れるという部分においても、見所のある作品ではないでしょうか。 

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僕らはもう負け犬なんかじゃない / 映画『きっと、またあえる』

■きっと、またあえる (監督:ニテーシュ・ティワーリー 2019年インド映画)

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■人生にとって本当に大事なもの

「人生にとって本当に大事なものってなんなのだろう」。あるショッキングな事件に見舞われた別居中の夫婦の元に、二人の学生時代の友人たちが集まります。楽しかったこと、悔しかったこと、彼らは学生時代の様々なエピソードを振り返りながら、この今、失くしてしまったものをもう一度手に入れようとするのです。インド映画『きっと、またあえる』は過去と現在を行き来しながら、笑いと涙の一大ロマンを描く作品です。監督は『ダンガル きっと、つよくなる』で世界的大ヒットを飛ばしたニテーシュ・ティワーリー。主演は『pk』のスシャント・シン・ラージプート、『サーホー』のシュラッダー・カプール

【物語】アニ(スシャント・シン・ラージプート)は妻マヤ(シュラッダー・カプール)と現在別居中、息子のラーガヴ(ムハンマド・サマド)を引き取り父子二人きりで生活していました。しかしそのラーガヴが生死にかかわる怪我で病院に担ぎ込まれ、アニの心は千々に乱れます。アニはラーガヴに生きる気力を与えるため、妻マヤと共に、懐かしい大学時代の旧友たちを呼び寄せます。そして彼らはラーガヴに輝きに満ちた青春時代の思い出を語り始めるのです。そこは1992年のボンベイ工科大学。エリートばかりのはずのその大学に、「負け犬」と呼ばれた連中がいたのでした。

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■現在と過去の二つの時間軸

物語は、現在と過去の二つの時間軸を行き来しながら描かれてゆきます。それは、エリートコースの人生を生き、悠々自適の生活を送っていたはずなのに、愛し合っていた妻とは別居し、息子にも思いやりのある父として接してあげられず、悔恨の中に沈む主人公アニの現在。そして、夢と希望を抱いて難関大学に入学し、変り者ながら気さくな連中と友情を育み、校内一の美女に心ときめかせていた学生時代の過去のアニです。お気楽な学生生活を送っていたアニと友人たちでしたが、彼らは校内で「負け犬」と呼ばれていました。それは、彼らが寮対抗で行われる競技大会で万年ビリッケツだったからでした。

まずこの、二つの時間軸を行き来しながら描かれる展開が非常に巧みであり、そしてスムースであることに驚かされる物語です。アニは病床のラーガヴに青春時代の物語を語りますが、そこで登場人物が一人増えるたびに、その本人が現在の姿で病床に現れ、青春時代の姿とオッサンになった現在の姿のギャップでいちいち笑わせてくれるんです(全然変わんないヤツもいるけどそれはそれでまた可笑しい)。でも彼らが一人また一人と現れるその様子は、なんだか『七人の侍』で猛者たちが一人一人登場してくるみたいで、とてもワクワクさせられるんですよ!

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■手に汗握る(そして笑わせる)ゼネラル・チャンピオンシップ

大学時代の彼らの楽しくお気楽な毎日は、いかにも青春ドラマしていて非常に和ませ、また笑わせます。あまりに下らないバカばっかりやっているもんですから、「名門大学の学生のくせしていったいいつ勉強してんだよ!」と突っ込みたくなるほどです。物語は彼らが寄宿する大学寮を中心として描かれますが、ここで思い出すのは同じく名門大学寮を舞台にしたインド映画の大名作『きっと、うまくいく』でしょう。しかし一見似通って見えるこの二つの作品は、『きっと、うまくいく』がランチョーという名の謎めいたカリスマの本質に迫る物語であったのに対し、『きっと、またあえる』ではイーブンな関係にある者同士の気の置けない友情ぶりが描かれてゆくことになるんです。

物語の核心となるのは寮対抗の競技大会、ゼネラル・チャンピオンシップです。「負け犬」とそしられる主人公たちが、この汚名をどう返上しチャンピオンと返り咲くことが出来るのかが描かれるんです。ここからは重いコンダラを曳く主人公たちのスポコン展開が……と思っていたら、おーいなんじゃその作戦はーーッ!?とズッコケさせられまくること必至です。ここからは笑いも加速し、同時にラストスパートへの緊張感もいや増してゆくんです。オチャラケも交えながらここまで緊張感を高められたのは、『ダンガル きっと、つよくなる』において手に汗握るレスリング試合の攻防を描いたニテーシュ・ティワーリー監督ならではの手腕でしょう。試合の駆け引きの巧みな描写と併せ、緩急自在な物語の駆け引きにも巧みなものを感じました。

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■”負け犬”たちの再生の物語

エリート校に入学し将来を約束された主人公らが、たかだか寮対抗試合ごときで「負け犬」だなどと気に病み憤慨するのはお門違いかもしれません。しかし、人にはそれぞれの「生きてゆく場所」があり、その定められた場所で「どう生きてゆくか」を選択してゆくしかないのだと思います。そしてその「どう生きてゆくか」がその場所で生きる人間の価値を左右するのではないでしょうか。エリートでありながら家庭の瓦解したアニは「どう生きてゆくか」を見失っていたのだと思います。あまつさえ、息子にすら「どう生きてゆくか」を伝える事ができませんでした。しかし物語ラストにおいて、過去と現在両方にその再生と赦免が描かれることになるのです。これは驚くべきシナリオ構成と言えるでしょう。

こうして物語は過去から現在に連綿として続く篤い友情を描きながら、その友情の物語を通して病床のラーガヴに生きることの大切さ、生きることの楽しさを伝えてゆくんです。それは同時に、エリートコースの中でアニが忘れかけていた、人生において本当に大事なものを思い出させる物語でもあったのでした。次々と語られるエピソードはどれもたおやかなほどに繊細かつエモーショナルであり、あるいは突拍子もない程とぼけていて、憎たらしくなるぐらい盛り上げ方と泣かせ方が巧みです。観ている間中、あたかも温かく心地よい感情の波のまにまを漂っているかのように心が豊かな気持ちになってゆく作品でした。この瑞々しい情感の在り方は、ある意味インド映画ならではなのではないでしょうか。映画『きっと、またあえる』は、長く記憶に残り語られ続けるだろう作品であることは間違いないでしょう。


映画『きっと、またあえる』予告編 

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最近観たインド(関連)映画3作

■ホテル・ムンバイ(監督:アンソニー・マラス 2018年オーストラリア・アメリカ・インド映画)

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映画『ホテル・ムンバイ』は2008年、インドの都市ムンバイで実際に起きたイスラム過激派による「ムンバイ同時多発テロ」を描いたものである。死者171人、負傷者284人を出したこのテロ事件は、インドでも未曾有の大惨事として記憶されている。

映画はこのテロ事件に見舞われたインドを代表する5つ星ホテル、ホテル・ムンバイを舞台にして描かれる。観ていてまず驚かされたのは犯人グループの情け容赦ない無差別殺戮を克明に描いていることだ。犯人たちは発見した客たちを問答無用に次々と射殺してゆき、ホテル内は屍累々たる地獄絵図と化すのだ。

そんな中、ホテル従業員たちは宿泊客に隠れ場所を提供し、脱出の手段を練る。実話とはいえ、この辺りのサスペンスが凄まじい。さらにこの事件においては、制圧部隊がムンバイ内に存在せず、遠くデリーからやってこなければならなかった、という事情がなおさらに絶望感を生む。ハリウッド映画のように特殊部隊が電撃突入!というわけには行かなかったのだ。だからこそ、ホテル従業員たちの決死の行動がクローズアップされ、そこでドラマを生んでいるのだ。

それにしてもインド映画でもここまで凄惨な描写が可能なのか、と思ったら実際はオーストラリア・アメリカ・インド合作映画で、監督もオーストラリア人だった。主演を『LION ライオン 25年目のただいま』『スラムドッグ$ミリオネア』のデブ・パテルが演じるが、インド映画界からも名優アヌパム・ケールが重要な役割で登場し、非常に強い存在感を感じさせた。ある意味もう一人の主役は彼だったんじゃないかとすら思わせた。

 

ガネーシャ マスター・オブ・ジャングル (監督:チャック・ラッセル 2019年インド映画)

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「象の密猟者は俺が成敗する!」という作品で、トニー・ジャー主演のタイ映画『トム・ヤン・クン!』を一瞬連想するが、これはあくまでインド映画。しかし監督は『ブロブ/宇宙からの不明物体』『マスク』『イレイザー』のチャック・ラッセル、主人公はインド武術カラリパヤットを操るイケメン獣医、という微妙にカオスな作品でもある。とはいえ「父と子の絆/対立」をメインドラマに持って来るインド映画的な展開と、それと対照的なマッスルアクションの炸裂具合には大いに楽しめた。なにしろ主演のヴィドゥユト・ジャームワール(映画『Commando』シリーズに出演あり)の筋肉美がいい。もちろんインド武術の動きも美しかった。マスクも甘いし、インドアクション俳優としてはタイガー・シュロフと同じぐらい人気が出てもいいんではないかと思ったがな。

 

ラクシュミー 女神転聖 (監督:パラム・ギル 2016年インド映画)

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レイプ未遂に遭った少女が護身のためにクンフーを身に付け、成人となって悪と対峙する! という一見面白そうな題材の映画なのだが、いやこれが箸にも棒にもかからないグダグダ作で・・・・・・。なにしろ中盤は主人公女子ととっちゃん坊やみたいな主演男優とのダラダラしたラブロマンスを延々見せられアクションのアの字も無いまま進んでいき、その後「星占いを無視して結婚した私たちに災いが!?」という謎のオカルト展開を迎え(ただし冥界の使者役でオーム・プリーが出演していてびっくり!)、やっと終盤アクションになだれ込んだかと思ったらこれがもうしょぼくてしょぼくて・・・・・・という作品で、インド映画って他にも沢山あるのになんでわざわざこの映画買い付けてきた!?と販売元を小一時間ぐらい問い詰めたい気分になった。一応「『マハーバーラタ』におけるサヴィトリとサティアヴァンの物語を現代に置き換えた作品」なのらしい。

ウォーッ!!インド超絶アクション作『WAR ウォー!!』が超絶面白かったぞウォーッ!!

■WAR ウォー!! (監督:シッダールト・アーナンド 2019年インド映画)

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ウォーッ!!インド超絶アクション作『WAR ウォー!!』が超絶面白かったぞウォーッ!!うぉうぉうウォーッ!! 

暑い夏の到来に合わせ、熱い思いを抱いた男たちが熱く激突するとことん熱い映画が公開だ!その名は『WAR ウォー!!』、インドで2019年に公開され大ヒットを飛ばしまくったアクション映画なんだ!それがいよいよ日本でも公開されるというわけだからこりゃもう観るしかないぞ!

映画『WAR ウォー!!』はジャンルで言うならスパイ・アクションだ!主人公はイスラム過激派テロリストを追うガチムチな若手インド諜報局員カリード(タイガー・シュロフ)!彼に課せられたミッションはテロリストに寝返ったガチムチの上司カビール(リティク・ローシャン)を追う、というもの!カリードは恩師として尊敬していたカビールを討つことが出来るのか、そしてカビールはなぜ寝返ったのか!?こうしてガチムチ敏腕スパイ同士がガチムチの肉体をぶつけ合う戦いが始まるんだ!

監督のシッダールト・アーナンドはトムクル主演のハリウッド映画『ナイト&デイ』のリメイク作品『Bang Bang !』をリティク・ローシャン主演で撮っていて、この作品がまた日本のインド映画ファンに大ウケしたこともあって、期待値の高まった作品でもあるんだね!展開するアクションは文句なしの出来栄え!銃撃戦に肉弾戦、カーチェイス、バイクチェイスが畳みかけるように炸裂する!ミニガンが身体を引き裂きRPGが全てを破壊し、巡航ミサイルが大虐殺の狼煙を上げて打ち上げられる!どれもが予算のたっぷり掛けられた息もつかせぬハイクオリティなアクションの連続!おまけに主演の二人のガチムチな肉体と身体能力の高さがよりアクションを華麗に魅せる!ハリウッド映画の引用もあちこちで見られ、バイクシーンでは『ミッション:インポッシブル』シリーズ、氷上対決では『ワイルドスピード ICEBREAK』を彷彿させていたが、オリジナルに決して引けをとっていない!なにしろ、どのシーンもカッコイイ!

一方物語は陰謀と裏切り、過去の因縁、思いもよらない大どんでん返しと、スパイ・アクションに必要な要素もたっぷり盛り込まれている!そしてこれは尊厳と誇りの物語であり、それを為す事の出来なかった悔恨と償いについての物語でもある。そんなドラマが熱く熱く語られ、感情が大きく揺さぶられること必至だ!そしてこれら全てが決して緊張感を途切れさすことなくひたすらエモーショナルに描かれてゆくんだ!まあ、「そんなの知らんがな!」とツッコミをいれたくなるような唐突で強引な展開もあるんだが、「面白いから全部許す!」って気になっちゃうんだな!

主演のタイガー・シュロフは今インド映画界で最もキレッキレなアクションと踊りを見せる若手映画スターなんだ!なにしろガチムチだ!目つきがちょっと爬虫類っぽいけど笑うと可愛くないことも無い!日本ではアクション映画『タイガー・バレット』がDVDとサブスクでリリースがあるから『WAR ウォー!!』を気に入った人は是非観てみよう!

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そしてこの作品の最大の魅力は、裏切った上司を演じるリティク・ローシャンがカッコよすぎるということ、これに尽きる!リティク・ローシャン、インド映画界でも重鎮の男優であり、日本ではスーパーヒーロー映画『クリッシュ』がDVDやサブスクでリリースされている!

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カッコよすぎる男リティク様

 甘いマスク、鍛え上げられた肉体、さらに踊りは抜群! リティク主演の映画は今まで何作か観たことがあるが、それらよりもお歳の召したリティクのいぶし銀の魅力に、画面を見ながらもうウットリ!オレは男だが!こんなリティクになら抱かれてもいい!いやオレは男だが!神様に願いを聞いてもらえるなら、こんなリティクになって自分に見惚れてみたい!とさえ思ってしまった!いやあアホだなオレ!

いや実はこの作品、ちょっと前に英語版ブルーレイで観てたんだが、映画館で観るとやっぱり違うね!なにが違うって、なにしろ重低音効きまくった音響がとてつもなく素晴らしかったんだよ!銃撃戦や大爆発の効果音、そしてサウンドトラックが臨場感たっぷりに迫ってくる!歌と踊りのシーンの音楽もサイコーさ!やっぱり映画は映画館だな!みんなも映画館にgoだ!

(※このエントリは以前英語版ブルーレイで視聴したときに書いたものを日本公開に合わせ内容を変えてお送りしました)

www.youtube.com

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『バーフバリ』監督による2006年作のスペクタクル・アドベンチャー映画『マガディーラ 勇者転生』

マガディーラ 勇者転生 (監督:S.S.ラージャマウリ 2006年インド映画)

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バーフバリ!バーフバリ!今年日本を席巻し幾多の映画ファンをひれ伏せさせた『バーフバリ』2部作だが、その人気にあやかりバーフバリの監督S.S.ラージャマウリが2006年に製作した映画『マガディーラ 勇者転生』が日本でも公開される運びとなったわけである。物語は過去と現代とを繋ぐひとつの悲恋を描いたスペクタクル・アクションである。

一つは400年の昔、ウダイガル王国。国王の娘ミトラと近衛軍の最強戦士バイラヴァは相思相愛の間柄であったが、二人は王国とミトラの愛とを奪おうと狙う悪辣な軍司令官ラナデーブの陰謀により無念のまま命を落としてしまうのだ。

もう一つは現代のインド。バイクレーサーのハルシャは街で偶然女性の手を触れたことにより、電撃的に不可知のヴィジョンを見てしまう。ハルシャはその女性インドゥを探し当て、お互いが400年前悲恋のまま命を落としたミトラとバイラヴァであることを知る。しかし、かの悪辣な軍司令官ラナデーブもまたラグヴィ―ルという名の男に転生しており、またもやバイラヴァの命を狙うのだ。

そう、これは【輪廻転生】の物語なのだ。インド映画ではお国柄なのかなんなのかこの輪廻転生テーマの映画というのがお得意で、同じラージャマウリ監督の『マッキー』も人間から蠅への転生を描いているし、人気の高いインド映画『恋する輪廻オームシャンティオーム』を始め輪廻転生テーマの映画は枚挙にいとまがない、というか作りすぎなんじゃないか?と思えるほど存在する。まあそれはそれとして、こうして400年の時を経た愛と復讐の因縁の対決がこの作品では描かれることになる。

見所をそれぞれ書いてみよう。まず過去編ではなにより『バーフバリ』を彷彿させるコスチューム・プレイを堪能できるのがまず嬉しい。壮麗な石造りの宮殿とそこを闊歩する古の時代の人々の衣装や習俗が目を楽しませ、かつてその地で行われた英雄バイラヴァと悪党ラナデーブ、さらにウダイガル王国を狙う侵略者軍団との血で血を洗う壮絶な戦いに息を呑ませられるだろう。

現代編の見所はハルシャとインドラとの嬉し恥ずかし恋の鞘当てを描くロマンスコメディ展開だ。しかしこのロマコメ展開は序盤まで、血に飢えた悪党ラグヴィ―ルの陰謀がまたもや二人を引き裂こうとする。この現代編においては前世の記憶を取り戻したハルシャがどうラグヴィ―ルの放つ死の罠を跳ね除け、今度こそインドラとの愛を成就できるかどうかが白熱の演出で描かれるのだ。

とはいえ、こうして書くと相当面白そうなのだが、実際には結構ズッコケた作品であることも留意するべきだろう。2006年公開作ということもあり、現代編のロマコメ展開は今見ると相当ベタだし垢抜けないしセンスも古い。まあこの時代のインド映画はえてしてこんなもので、インド映画ファンなら「愛嬌愛嬌」と言って観てしまえるが、現代風のハリウッド映画やドラマに目の肥えた映画ファンはちょっと引くかもしれない。

現代編も含む過去編のCGやらSFXやらの稚拙さも、今風の映画に慣れた一般映画ファンにはある種噴飯モノに見えてしまうかもしれない(とはいえ過去編のセットはよく出来ていたと思うし王国の俯瞰映像も悪くなかった)。また、全編を通して時折画質が急に悪くなる部分にも面食らうだろう。人によっては「なんでこの映画には髭の生えた太っちょのオッサンしか出てこないの?」と思われるかもしれない。

しかし、そういった意気あって力足らずの映像面は想像力で十分補えるものだ。それよりもやはり、今作の10年余り後に製作されることになる『バーフバリ』に通じる、面白い、カッコイイと思えるシチュエーションはリアリティなんぞ二の次にして問答無用に物語に組み込んでしまう勢いの良さと、そういったシチュエーションを生み出せる理屈に捕らわれない自由な発想の在り方が、今作において既に花開いているということだ。自由過ぎて時折クスッと笑ってしまう部分も共通している。

S.S.ラージャマウリ監督はインド映画監督にしては日本でも結構作品が紹介されている監督で、日本公開作では『バーフバリ』2部作の他にも『あなたがいてこそ』(2010)、『マッキー』(2012)といった作品がある。そして『バーフバリ』以外の2作も自由で瞬発力に優れ、同時に「なんだこれは!?」と思わせる突飛さに溢れた作品だ。全ての作品に共通するのは「とにかく面白い映画を作りたい!」という意気込みと、それを可能にする力だろう(実の所、南インド監督は皆このぐらい熱い作風なんだろうけど)。この『マガディーラ 勇者転生』はこの後製作される作品の中ではまだまだ荒削りであり、オリジナリティといった部分でも平凡かもしれないが、ラージャマウリ監督の持つ熱量を十分伝える作品として見応えを感じた。

S.S.ラージャマウリ監督作品レビュー

■「マガディーラ 勇者転生S.S.ラージャマウリ監督コメント映像&予告編

 

S.S.ラージャマウリ監督作品日本発売ソフト

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『バーフバリ』的超絶展開が巻き起こるインド・アクション映画『サーホー』!

■サーホー (監督:スジート 2019年インド映画)

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近未来のインドを舞台に、警察・マフィア・大泥棒とが三つ巴となり虚虚実実の駆け引きを繰り広げあうというアクション大作がこの『サーホー』だ。主演にあの『バーフバリ』サーガでバーフバリ王を演じたプラバースが抜擢され、『バーフバリ』サーガを思わせる破天荒な異次元アクションが次々と飛び出すという最新インド映画話題作である。

物語の舞台はまずはムンバイ。200億ルピーに上る大規模な宝石窃盗事件が起こるが、捜査は依然として進まなかった。そこで抜擢されたのが敏腕潜入捜査官アショーク(プラバース)。彼は女性警察官アムリタ(シュラッダー・カプール)と協力し合い難事件に挑む。もうひとつの舞台は悪の街ワージー。犯罪組織の首領ロイ(ジャッキー・シュロフ)が暗殺され、その息子であるヴィシュワクと幹部デーヴラージ(チャンキー・パーンデー)の間で3兆円を越えるとされる資産を巡り抗争が勃発した。そんな中、大泥棒を名乗る謎の男(ニール・ニティン・ムケーシュ)が3兆円の眠る金庫のキーアイテムを強奪しようとしていた。

まずなにより特記すべきは主演であるプラバースのギンギラギンに黒光りした男の魅力だろう。『バーフバリ』では臣民に愛される豪胆な王を演じた彼だが、今作では同じような無敵かつ強力なキャラであるのと同時に、ミステリアスでフェロモン発散しまくりのセクシーさで迫ってくる。プラバース演じる主人公アショークの大胆不敵さとそのカリスマ性は、この物語の大きな核となっているのだ。

そしてそのアクションだ。冒頭から『ザ・レイド』や『トム・ヤム・クン』を思わせる階層上昇型のアクションで度肝を抜き、炸裂する熾烈なカーチェイスは『ミッション・インポッシブル』や『ワイルド・スピード』シリーズもかくやと思わせるアクロバティック極まりないチェイス・シーンを見せる。肉体vs肉体の戦いでは鬼神が乗り移ったのかとさえ思わせる神懸り的な超絶殺法を繰り出し、身体は宙を舞い壁を突き抜けてゆく。さらになんと、今作では空まで飛んじゃうではないか!?なにしろもう全編に渡りやり過ぎ!?な何でもアリ感に満ち溢れ、「不可能の無い男アショーク」の超人振りにひたすら歓喜し感嘆し平伏してしまう、というのが本作なのだ。こんな具合にあまりにとんでもない展開が連発されるもんだから、クライマックスの辺りでオレは笑いが止まらなくなってしまったよ!

しかし『サーホー』はこのようなマッチョなアクションのみに終始する作品では決して無い。物語には様々な伏線が張り巡らされ、陰謀と計略が複雑に絡み合い、敵と味方はいつしか逆転し、誰が信じられる者なのか否かが錯綜し始め、どんでん返しに次ぐどんでん返しの連続には息つく暇さえない。単純なアクション映画だと思って舐めてかかると痛い目に遭ってしまう、そんな精緻なシナリオの妙味もまた技ありという作品でもあるのだ。こうしたいわゆる叙述トリック的な物語作りは実はインド映画では多く見られ、あまり語られないインド映画のもうひとつの魅力でもあるのではないかと思うのだ。

共演者としては、ヒンディー語映画でお馴染みのジャッキー・シュロフが出演し、これまた黒光りした悪の魅力を発散しているのも見所だし、同じくヒンディー語映画の名バイプレイヤー、ムラリ・シャルマの出演も嬉しい所。謎の大泥棒役を名作『プレーム兄貴、王になる』でアジャイ王子を演じた色男ニール・ニティン・ムケーシュが演じていることも見逃せない。ヒロインを演じるシュラッダー・カプールは『Haider』『Baaghi』を始め、今年日本公開予定の『きっと、またあえる』に出演を果たしている人気若手女優で、今後注目だろう。監督のスジートはこれが長編2作目となる新人監督だが、まだ29歳!?という若さにもかかわらず恐るべき才能を披露してくれた。

というわけでアクション・エンターティンメント作品として100%どころか1000%ぐらいにみっちりこってり面白さが詰まった『サーホー』、オレは充分に堪能出来たな!『バーフバリ』シリーズのキャッチフレーズは「王を称えよ!」だったが、この『サーホー』はさながら「サーホー万歳!」といったところかな。とはいえ「サーホー」って「万歳」って意味なんだけどね!サーホー万歳!